3部分:第三章
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第三章
店の親父が新聞を買って来た。実はこの店の人間は客も含めてあまり新聞を読まない。理由は簡単で字を読める人間がいないからだ。
しかし彼は新聞を買って来た。おかみはいぶかしみながら亭主に尋ねた。
「また何で新聞なんか買ってきたんだい?」
「ああ、実はな」
「実は?」
「寒くてな」
だからだとだ。笑って話す彼だった。
「それでだよ」
「寒くて新聞を買うのかい。わからない趣味だね」
「実はな。新聞はな」
「焼いてそれで暖を取るってのかい?」
「ああ、違う違う」
それは否定する亭主だった。笑いながらだ。
「そうじゃなくてな」
「じゃあ何で買ったんだい」
「これを服の中に入れるんだよ」
実際にだ。彼は新聞紙を上着の中に入れてみせた。そのうえでまた話すのだった。
「そうすればあったかいんだよ」
「そうだったのかい」
「ああそうだよ。それでなんだ」
「面白いね。字を読めなくても新聞って役に立つんだね」
「そうだな。じゃあ店の用意するか」
「そうだね」
二人が率先して店を開ける準備をはじめる。新聞は店のカウンターの端に置いた。店の者達も来てその都度準備に加わりだ。開店準備をはじめた。
客達も入る。やはりあの客も来た。彼はいつもの席に座ってだ。やはり山の様な料理を平らげていく。ここまではいつも通りだった。
しかし客の一人がだ。カウンターの端に来た。そしてであった。
「おや、珍しいな」
「珍しいって?」
「何かあったのかよ」
「いや、新聞があるな」
その客は新聞に気付いたのである。
「この店に新聞があるなんてね」
「ああ、その新聞な」
亭主が笑いながらその客に話す。
「実は俺がな」
「おやっさんが?」
「服の中に入れてあったまったんだよ」
このことを客にも話すのだった。
「それでだよ」
「それでか」
「ああ、そうなんだよ」
笑いながらの言葉だった。
「それでなんだよ」
「成程ね。生活の知恵ってやつだな」
「そういうことだな。まあまた暖に使うか」
「いや、ちょっとその前にな」
ここでだ。客はこう言ってきたのだった。
「この新聞読ませてくれるか?」
「おや、あんた新聞読めるのかい」
「少しな」
そうだとだ。亭主に話すのだった。
「読めるんだよ」
「そうだったのか」
「少しだけだけれどな。じゃあ読んでいいか?」
「ああ、好きにしな」
親父はそれは一行に構わないとした。そうして客がそれを読むことを許したのだった。
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