アインクラッド 後編
圏内事件 3
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、攻略ペースを最前線で引っ張る攻略の鬼。つい先日も攻略の方法を巡ってキリトと激論を繰り広げた《閃光》と、楽しそうに露店を冷やかす彼女が同一人物だと、一体誰が信じられよう?
などと考えていると、ぽつんと取り残された男二人の視線に気付いたのか、二人はこちらに振り返り、キュートに笑いながら首をかしげた。
あからさまにうろたえるキリトを尻目に、右手をヒラヒラと振って「何でもない」と告げる。
しかし――黒ずんだ石壁にもたれながらマサキは思う。アスナが血盟騎士団に入って以来、キリトと二人のところを見かけることはぱったりとなくなった。特に副団長に就任してからは、大ギルドの幹部とソロプレイヤーという立場の違いもあり、どちらかと言えば対立することの方が多かったほどだ。それが、この変わりようだ。一体この二人に何があったというのだろう。もっとも、何があろうとなかろうと、マサキには関係のないことなのだが――。
――『……俺、ギルドを一つ、潰したんだ』
マサキの脳裏を掠める、キリトの声。
――『俺……実は、ビーターなんだ』
かつての親友の声が、すぐ後に続く。それら二つが同じ響きを持っていたことに、マサキは今になって気付いた。
マサキは横目でキリトを見やる。柔弱そうな瞳の奥に滲む、黒目より暗いフィルター。
通る色を全て黒で塗りつぶし、光を極端に恐れ、遠ざける。
それも、当時の彼と同じものだった。
もしかしたら、今のマサキ自身とも。
確か……あの時は、中学生の書いたポエムみたいな言葉で彼を丸め込んだのだったか。
「キリト君、これ、黄色と水色だったら、どっちがいいと思う?」
髪飾りを物色していたアスナが、振り返ってキリトに尋ねた。
「え? と……黄色、かな」
「なに? それ。もう、こっち来て、もっとよく見て選んでよ。……って、あ、先に言っておきますけどね、キミの好みに合わせようとか、そういう意味じゃないですからね! ……ほら、ぼさっとしてないでさっさと来る!」
ツンと膨れていたアスナは一気に顔を真っ赤にしてまくし立てると、ただ戸惑うことしか出来ずにいたキリトを引き摺って行ってしまった。
その一幕を端から見ていたマサキが、思わず苦笑を漏らす。何だかんだ、あのコンビの相性は良好のままのようだ。キリトのことは、彼女ならそのうち気付くだろう。その時……彼女は、果たしてどうするだろうか。
それは、マサキが介入することではない。
否、マサキでは介入できない。
以前のように丸め込む言葉は、今のマサキが使うには滑稽すぎるから。
大人になった中学生が、昔と同じポエムなんて書けないのと同じこと。
「マサキ君! あそこ、何か食べ物屋さんみたい! 見に行こ!」
「な、ん……っ!?」
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