アインクラッド 後編
圏内事件 3
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続き、人の命を喰らい続けている。
「マサキ君」
澄んだ声に呼び戻されるようにしてピントが戻る。目の前に、小さな手のひらが左から伸びてきて浮かんでいた。
「コップちょうだい。お水、注いであげるから」
「あ、ああ……」
一瞬だけ思考が止まった間に、マサキは言われるがまま、いつの間にか中身が尽きていたコップを差し出されたエミの手に握らせていた。エミは何が楽しいのか、にこにこと口元を緩ませながら水差しを傾ける。そんな仕草に、何となくマサキは毒気を抜かれてしまう。
小さく、肺から息を抜く。
「……まあ、そうだな。今すぐそれを確かめるのは難しい。となると……まず議論すべきは一つ目、正当なデュエルの結果である可能性か」
「よかろう。……しかし、料理が出てくるのが遅いな、この店は」
「俺の知る限り、あのマスターがアインクラッドで一番やる気ないNPCだね」
「……そう言えば、今まで気にしたこともなかったけど……」
微妙に脱線しかけた話の軌道を修正するように、アスナが口を開いた。
《醤油抜きの醤油ラーメン》と言う混沌極まるメニューを肴に行われた昼食会は、結局幾つかの可能性が不可能であると結論付けただけで終了した。選択肢を狭めるという意味で言えば有意義ではあったが、解決への道筋が見えたわけでもなく、事態はより迷宮に近づいたと言うのが正しい。故に、マサキたち四人の間に流れる空気も必然的に重苦しいものに――
「あ! ねぇねぇアスナ、これも可愛い!」
「わ、ホントだ。うーん、買っちゃおうかなぁ?」
「いいと思うよ? アスナ、似合いそうだし」
――ならなかった。アインクラッド随一と言えるほどの表通りの喧騒すら届かないアルゲードの裏路地は、およそ似つかわしくない黄色い声に染め上げられていた。
一足先に帰ったヒースクリフを見送り、次の行動に移るべく、転移門広場を目指して歩き出したマサキたちだったが、その歩みは予想外に遅かった。女子二人が裏通りの怪しげな露店や暗渠に見入ってしまったためである。
「……なあ、これ、いつ終わるんだ……?」
困り果てたように尋ねてくるキリト。
「知らん。向こうに聞け」
マサキはぶっきらぼうに返すと、キリトの顔に「それができたら苦労はしないんだって……」とでも言いたげな渋面が浮かび上がった。それを横目でスルーしつつ、マサキはアクセサリーを手にはしゃぐエミとアスナを見やる。
エミについては、まだ分かる。以前夕飯の買い物という名目で強制的に連れ回された時も、胡散臭い屋台やうらぶれた店に直撃しては、興味深そうに商品を眺めていたものだ。恐らく、彼女は元来そういう性格なのだろう。
予想外だったのはアスナだ。一日でも攻略をサボろうものなら烈火の如く激怒し
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