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手紙
3部分:第三章
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あるハノーヴァーに馬車で向かっていた。彼は馬車の中で愛人達と楽しいお喋りに興じていた。
「やはり酒はドイツだな」
「ええ、全く」
「その通りですわ」
 二人の愛人達が愛想よく彼に応える。彼は二人に囲まれて至って上機嫌であった。
「ハノーヴァーに着けばまずはワインだ」
「モーゼルですのね」
「イギリスの酒とは違っていい酒だ」
 イギリスに対する感情をここでは隠していなかった。もっとも最初から隠しているとはお世辞にも言えはしなかったが。
「モーゼルはな」
「それでは選帝侯様」
 しかもイギリス王とは呼ばれなかった。王もそれを気にする気配もない。
「ハノーヴァーでは」
「モーゼルを」
「そうだ、いつもの様に三人でな」
 彼は上機嫌で二人の愛人達に語っていた。ここで馬車が一旦止まった。
「ふむ。小休止だな」
「そのようですわね」
「さて、と」
 王はここでとりあえず大きく背伸びをしたのだった。実にくつろいでいる。
「ハノーヴァーでまた楽しくやるか」
 こう言った時だった。馬車の中に一通の手紙が投げ込まれた。
「あら、これは」
「手紙ですわ」
「誰が入れたのか」
 王はまず入れた主について尋ねた。しかし返事はない。
「誰か」
 しかし返事はない。王にとっては奇妙なことだった。しかしとりあえずはよしとした。
 まずは手紙を見た。するとそこにはこう書いてあった。
『神の裁きの庭において私と会うことになりましょう。裁きを受けるのは私ではなくて貴方です』
「これは・・・・・・」
 王はすぐにわかった。この手紙の主が誰なのか、そして何を言っているのか。全てを察した王は蒼白となり声にならない叫び声をあげた。そうしてその中で事切れたのであった。二人の愛人達は急いで王に声をかけたが返事はなかった。王の死はイギリス国民には喜ばれ誰も悲しまなかった。冷遇されていた太子が王となり以後は真っ当に愛されるイギリス王が生まれていくことになった。
 この手紙の主が誰だったのかは真相はわからない。王妃だったかも知れないし他の者、王妃を慕い王を嫌う誰かだったかも知れない。だがこの手紙が王を殺したのは紛れもない事実だ。王は死んだ、一通の手紙によって。手紙は時として人の命を消してしまうものであるのだ。


手紙   完


                  2008・9・13

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