幕間 〜二人の道化師〜
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ずなのに、多くの人が死んでいく。
重圧につぶされそうな夜を幾重も越えて、私達はそれでも歌を歌い続けた。だって歌うことでしか、私達は誰も救えない。
人和ちゃんは一番頭が良かったから、精神が壊れそうになった。地和ちゃんは明るく振る舞っていたけれど、夜に泣いていたのを知っている。
だから私はずっと……ずっと笑って歌った。笑顔で歌わないと、私は誰も救えないから。
道化師のように笑って……それで誰かが笑ってくれたらいい、と。
怒られても、喚かれても、悲しまれても、私には笑って歌うことしか出来なかった。
華琳様に捕まってからは……失った命をこの背に乗せた。何十万という人の命はもう戻らない。しかしそこにあった想いを穢すことだけは……歌に想いを乗せる私には出来るはずもなかった。
利用してあげる、と華琳様は言った。死んだ命に懺悔し贖罪を届ける事は永遠に出来ないとも。
この身を世界に捧げても足りない。死んで贖うことなど許されない。ただ、他に言ってくれたことは一つ……一緒に大嘘つきになってあげる、と。
世界を騙す私達は、それでも前を向くことを選んだ。もう間違わないように、幸せになりたかった人達の想いを無駄にしないように。
死んだ人達の望んだ世界は、私が華琳様と一緒に必ず作り出す。そう決めた。
だから私達は歌い続ける。喉が張り裂けて死ぬまで笑顔で歌うこと……それが私達の贖罪の仕方。
『自分には何も出来ないけれど、せめて言葉で伝えたい』
『何か一つでも力になれたなら、それはどれだけ幸せでしょう』
『愛してくれた感謝を込めて、あなたの幸せを祈っていいですか』
私達三人しか知らない。
幽州で歌ったあの歌は、黄巾の時に兵士達に歌っていた歌なのだ。
私達は何も出来ないから、せめて抗う彼らに幸せを。平穏を望んだ人々全てに幸せを。どうかあなた達が幸せに暮らせる世の中を。
皆が思い描く大切な人の為にと、私達が言の葉を乗せた歌。
狂気の始まりで、ずっと歌わないと決めていたモノ。
なのに何故歌ったのか……あの大地が、優しすぎたからだ。
潜り込んで、旅芸人として話を聞いた。
幽州で仲良く暮らしていたはずの人達が、どれだけ一人の王を愛しているか。そして……黒麒麟がその王とどれだけ仲が良かったか。
狂気は容易く伝播した。
あの歌が、あの歌が、あの歌が、あの歌が……また人を殺めた。しかし……彼らの主を救い、彼らの心をも掬い上げた。
私達の喉は血に塗れている。誰にも知られず舞台で踊る道化師として笑顔を振りまきながら、この罪深さはずっとずっと背負っていく業だろう。
私達が帰ってきた時の店長の哀しみと怒りは誰にも言えない私達だけの秘密。
あの大地を黄巾と同じに落としたと報告して…
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