幕間 〜二人の道化師〜
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目をキラキラさせて寄ってくる子供達の輪の中心で、彼はふっと微笑んだ。
「ふふっ、今日は逆なんだね」
「お前さんの歌は好きだけど……たまにはな」
合えば歌を聞いていた。しかし今日は彼の番。
「琵琶に似てますね。何処の国の?」
「さあ? 吟遊詩人が使ってたもんだから分からんよ。概要を絵に描いて出来たから本物とは違うだろうし」
「秋斗って……なんなの?」
「楽しいことが好きなだけだ。遊んでばっかりってわけでもねぇが」
わくわくと目を輝かせる天和に、知性の光を宿した人和、地和は彼の不可思議さに驚愕を抑えず。
質問をゆるりと躱して、彼はにへらと笑った。
「さて、お集まりの皆さま方、黒の道化師が想いを重ねし曲を一つお届け致しましょう。拙い歌にございますが、どうかご清聴にて御観覧をば頂きたく」
一言口上を述べて、左手のカタチは一つのコードに。
自分が弾ける曲の中から何がいいかと考えて、選んだのは子供のころに好きだったアニメの歌。
つま弾く弦の音が幾重。鳴らされた音の重なりと彼の喉から放たれる歌声は、子供達の耳を擽り彼女達の胸に響き始めた。
曲が終わり、最後の一音が力強く響く。
ところどころ失敗したが、それでも歌い切った後は心地いいモノである。
久しぶりにその曲を歌ったこともあってか、彼の胸も少しばかり燃えるように暖かくなっていた。
少年少女が異世界に跳んで大冒険を繰り広げた有名なアニメの主題歌。いつか自分だけの相棒を伴って大冒険をしたいと……彼もデジタルな世界に想いを馳せた一人である。
さすがにソロは弾けずとも、コード進行での弾き語りくらいは練習したことがある。ギターを買った若い青年にありがちなご多分に漏れず、彼も好きな曲を練習した口であった。
現代ではカラオケなど有り触れていたし、歌の練習の場所など溢れかえっていた。人付き合いでも友達付きあいでも何度も訪れていたから、聴ける程度には彼もそこそこに歌える。
哀しいかな、この世界でこの曲で盛り上がってくれる人物など一人もいないが……それでも彼は満足げだった。
ほう、と感嘆の吐息を漏らして子供達は目を輝かせる。拍手喝采、街を歩いていた人々もはたはたと脚を止め、彼の演奏に歓喜を送る。
歌詞に分からぬ単語があろうとも、音に言の葉を乗せるだけで想いは伝わるモノだ。
「か、かっけぇ……」
「徐晃様すごーいっ」
「……ずるい、こんなの」
「ぼ、ボクにも、出来るかな?」
「きっと出来るさ。歌うことに縛りは無いし、楽器だっていつか手軽に買えるようにするつもりだからな」
「でも知らないお歌だったよ?」
「普通の歌とも違ったよねー?」
「お姉ちゃん達のお歌と似てたかもー!」
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