第七十八話
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――男が最後に見た光景は、一瞬の閃光……後に爆炎に包まれる、自分と愛銃の姿だった。
……踊り子は閃光がほとばしった遠くの岩場を一瞥すると、それだけで何の感慨もなく町への歩を進めていく。歩くごとに半透明のレースがユラユラと揺れ、曖昧に吹かれていた口笛がようやく完成する。
「あ、そうだ。あいむしんきんーとぅーーとぅとぅー」
……どうやら口笛のリズムを思い出したらしく、ご機嫌になったのか歩くスピードが少し早くなっていく。そのまま誰にも見つかることはなく、踊り子はどこかに消えていく。
「今ので何人倒したっけ……本当のレッドプレイヤーの人は殺した数なんて覚えてないのかな? どうなんだろ?」
……所沢市立総合病院。かつてアインクラッドに囚われた俺を収容していたところであり、未帰還者となっていたアスナが入院していたところでもある。いつぞやはリハビリなどの為に通院していたが、もう月に一回程度の頻度となっており、こうして訪れるのは久しぶりのことだった。
ゲーム上の弾丸でプレイヤーを殺害する死銃――その原因や方法は未だ不明のままであり、菊岡さんが提供してくれた場所がこの病院だった。ここの病院の機材ならば何が起きているかモニターすることが出来るし、いざという時にも対応が出来る、という理屈は分かるのだが。
「撃たれても大丈夫だから、本当に撃たれてこいってことか?」
「…………」
SAO事件が始まる前から使っていた愛用の自転車を漕いでいると、バイクで併走している和人からそう声がかけられたが、何も言い返すことは出来なかった。エギルから貰ったという中古のバイクは、今日も排気ガスを撒き散らしながら走っており、それぞれの駐輪場に留めていく。
いつぞやのアスナが囚われていた頃とは違い、気軽に病院の中に入って受付を済ましていると、スーツ姿の青年に道を誘導された。どうやら菊岡さんが話を通してくれていたらしく、準備が出来るまで俺たちはここで待っていろ、ということらしい。
用意された椅子に座って一息ついていると、俺と和人が同時にため息をついた。理由も多分同じようなものだろう。どちらも苦笑いを浮かべていたが、先に和人の方が口を開いた。
「リズには……言ったか?」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる」
今からプレイヤーを殺した銃弾に当たってきます――などとはついぞ言えず。何かがあるって悟っているだろう彼女たちに、隠し事をしているようで――いや、実際しているのだが――とても居心地が悪い。かといってなんと言えばいいものか、和人と2人で首をひねったものの何の案もなく、今に至るわけだが。
「心配かけてる……ってか、申し訳ないよな」
「……でも言ったら明日奈もついて来るだろうしな……」
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