誕生、前代未聞の冒険者
第七話
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た。蒼真とか言った坊やに。
「恋い焦がれた相手に、面と向かってではないけど、『恋愛対象じゃない』は、辛いね。」
日記の終盤に書かれていた、失恋の日、偶々通りがかった廊下で蒼真の告白を受け入れた澪を向こうから見えない場所で目撃してしまい、挙げ句にその澪から、英司は只の幼馴染みで、恋愛対象として考えたこともないと言われた事。これで決定的に、心が砕けたらしい。
そうじゃなくても、前々から蒼真に暴力等を受けていて、その蒼真が澪の彼氏になったのがショックだったのに、そんな事を言われたら、入れ替わった此方の僕の心境も分かる。
「良いんだ。頑張ったね、『僕』。誰でもない、僕が認めるよ。君は全力を尽くした。」
口調は穏やかだが、勝手に体は小刻みに震えて、目から水分が溢れる。大いに吐き出せ、『僕』の残滓。
「泣いていいんだ。どんな結果であれ、一つの夢が終わったら、また新しい夢が始まる。」
成就したなら喜びを胸に、破れて泣くなら涙を流しきり、『今まで』に手を振って歩き出す。人の生き方とは、そんなものだ。
「泣くだけ泣いたら、涙で濡れた服を着替えて、笑って人工島に行こう。そして…、家を買うんだ。僕の、『拠点』を。」
天を仰ぎ、決意を口に。此処に居場所は無かった。ならば作るだけだ。ホット・ペッパーを呼び出し、炎を生み出す。それを達成する為の、力もある。
「僕はやるよ、『楠英司』。『君』が成したくて成せなかった分まで、僕は前へ進む。」
手で目を拭い、涙を追い払う。もう、涙は出てこない。
「…行ってきます。」
力強く一歩踏み出し、路地裏を出る。そして何処からか聞こえた、
『行ってらっしゃい。』
という優しい返事は、けっして空耳ではないと思った。
因みに、路地裏での発言は全部独り言である。誰か見ていたら大変だった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
一晩と言わず、行きたい道を決めたので、家族に僕の意思を伝える。人工島に行くと。冒険者、『ヨーン』こと楠英司として、生きていきたいと。
当然、母と兄は猛反対した。自ら危険に足を踏み入れる事は無いと、認めようとしない。だが、意外にも親父殿は、僕の目をしっかり見つめ、質問した。
「後悔しない、選択なんだな?」
「僕が僕でいられる、道だから。」
親父殿から目を逸らさず、返事をする。
「…分かった。」
「あなた!!」
「父さん!!」
信じられない、という表情で、親父殿に詰め寄る母と兄。気持ちはありがたい、でも別の道を選ぶ気はない。
「援助は、せんぞ。」
「構わない。」
「逃げ帰るのも許さん。」
「分かってる。」
親父殿と、確認を交わしていく。これで、退路は無くなった。ただ、前進あるのみだ。二人が止めよう
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