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花火
2部分:第二章

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第二章

 その彼は実際に死んでも身体を洗われず即座に火葬となった。棺桶ごと火の中に入れられる。するとその途端にであった。
 棺桶が燃えるとだ。その中から、
 パパパパパパパン、と派手な音が鳴りだ。赤や青の光が飛び出てだ。爆発さえ起こった。その爆発が一体何かというと。
「花火か」
「まさかそれを仕込んでたのか」
「それで身体洗うなって言ってたのか」
「すぐに火に入れろって」
「それでか」
 ここでだ。皆わかったのだった。
「成程な。それでか」
「それでだったんだな」
「何かって思ったけれどな」
「最後の最後で仕込んでたか」
「とっておきの悪戯を」
「けれどな」
 それを話してもだ。しかしなのだった。
 彼等は微笑みになってだ。こう話すのだった。
「あの人らしいな」
「最後の最後まで悪戯をするなんてな」
「それも賑やかな」
「戯作書きらしいな」
「全くだよ」
 こうだ。笑顔で言い合うのである。
「悪戯をしておくなんてな」
「派手な悪戯だよ」
「最後の最後まで人を驚かせて喜ばせて」
「粋だねえ」
 この言葉まで出た。
「そうでなくちゃな」
「やっぱり。戯作書きなら最後までな」
「そうこないとね」
 こう言い合ってだ。彼のその最後の最後の悪戯を見て笑うのだった。
 こうして彼はだ。その一生で最後の悪戯を成功させたのだ。
 このことは江戸中に広まりだ。町人達が語り継いだのである。
 これが十返舎一九の葬式である。名作を書き終えた者の大往生である。
 この結末については多くの者がだ。笑いながら話した。そして今でも多くの者に語り継がれている。作品だけでなくだ。彼自身のことも名を残させた見事な大往生であると言うべきであろう。そう思いここに書き残しておく。願わくばこれからも語り継がれんことをと思いつつ。


花火   完


              2011・3・22

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