ep-1─それは突然に舞い降りて
#02
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《運命の記憶》。
《担い手》達が、《超越回帰》の習得と同時に手に入れる、過去の、あるいは未来の……もしかしたら、全く別の世界の、自分の記憶。モノによっては、いずれそれと同じ結末に《担い手》を導くこともあったから、人々はこれを《運命の記憶》と名付けた。
その内容は千差万別。《担い手》によって全く違う。共通の光景を見ることはあるが…有名な例では五十年前、黎明期に存在した二人の剣士だ。黒と白の対となる容貌が特徴であった彼らは、全く同じ場面の記憶を有していたらしい…その視点は必ず異なるし、何よりも発現する能力が異なる。
発現する能力が同じ、ないしは似通ったものでも、保有する記憶は全く違うモノとなるのだ。
だから、その内容を正確に言い当てるなどと言うことは不可能に近しい。
ならば、何故この女はそれを知っている?
「どういうことだ……?」
「ふふっ、内緒よ」
いたずらっぽく笑う少女に対して、レンは怒りと共に異常なまでの倦怠感を覚えた。
――何と面倒なのだ、コイツの相手は。
――忌々しい。
「……出て行け」
「あら、いやよ。私、貴方しか知り合いがいないわ」
「俺の方は知らないがな」
「まぁ、人と人との関係なんて相互互換じゃないのよ? 貴方が友達だと思っていても、相手は貴方を塵芥にも見たない存在としか認識していないかもしれないし……狂おしいほどの愛情を抱いているかもしれない」
謎かけの様なマリアの言葉に、レンは顔をしかめて問い返す。
「……何が言いたい」
「やぁね、そんな怖い顔しないの……単純よ。貴方が私についてどう思っていようとも、私が何か吹聴すれば、それがあなたの評価に直結するかもしれない、って脅してるのよ」
「脅してるって……随分と直球で言うモノだな……」
つまりマリアは、例えば自分がレンに襲われた、とでも周りの人間に吹き込めば、レンの社会的地位が下落する、という事を言いたいわけだ。
だが、レンは元戦犯……《仲間殺し》だ。既に一部の人間を除いて、レンに対する社会からの目線は『最悪』の部類に入るだろう。そして『一部の人間』は、レンがマリアが吹聴しようとしているようなことをやる人間ではない、と確信している。
だから返す言葉は決まっている。
「そんな物は俺に効果はないぞ。もう一度言う……出て行け」
「あら、いやよ。私、貴方と一緒に住みたいわ」
「断る。出て行け」
「やーよ」
問答は、その日の夕暮まで続いた。
最後は、レンが折れて、「一日だけだぞ。明日になったら家に帰れ」と言って、マリアを泊めることにした。
すると彼女は、
「あら、家なんてないわ」
と、さも当然の様に笑って答えた。
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