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東方虚空伝
第三章   [ 花 鳥 風 月 ]
五十三話 緋色の宵 後編
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窪地のみ。
 その威力に妖怪達は驚愕し“動きを止める”という愚行を犯し、永琳はその的と化した妖怪達に向け黄金の矢を三本生成すると躊躇無く撃ち放った。
 鰐型は抵抗すら出来ず粉砕され、二匹いた人型はすぐさま空中へと飛び上がり回避しようとするが黄金の矢はまるで意思が有るかのように軌道を変え二匹を纏めて打ち抜いた。
 不定形の妖怪は地面に潜り逃げようとしたが、その地面ごと消飛ばされるという結果になる。
 僅か数瞬であっさりと形勢逆転してしまった状況に残った三匹は目の前に居る存在に恐怖を抱く。本来なら人を恐怖させるのは妖怪の在り方で在る筈が、妖怪が人に対し恐怖するという不可思議な光景を生んでいる。
 居竦んでいた内の一匹、永琳に空中で襲い掛かっていた虎型が突然苦しみだし地上をのた打ち回った。暴れまわる虎型妖怪の胸には五pほどの菱形(ひしがた)をした半透明の物体が突き刺さっている。

 それは永琳が持ち歩いている投擲式投薬鋲螺(とうてきしきとうやくびょうら)で、中に薬剤を入れ対象に投げ付けると先端の螺子状の針が対象に食い込み体内に薬剤を投与する道具。
 人にとっては気が遠くなる程の過去に永琳が研究の合間を使って造った自称“医療機器”らしい。
 とは言っても実際に医療に使われた事実は無く客観的に見て間違いなく“凶器”だ。

 その凶器の餌食になった虎型は酷く苦しみのた打ち回っていたが唐突にその動きを止める、そして――――風船が割れる様に液状になって弾け飛んだ。
 周囲に四散した虎型の妖怪であったモノは暫くすると薄らな煙を上げ塵になっていく。その様子を見ていた残りの二匹、人型と蟷螂型妖怪は漸く事態が最悪なものだと悟り逃走を図ろうとしたが何故か身体が全く動かなかった。

「あら?逃げてもらうと困るのよ――――折角だから他の薬も試したいの」

 何時の間にか彼等の背後に回っていた永琳が小さな小瓶の中身である粉末をふり掛けながらそう告げる。

「身体が動かないのが不思議かしら?大丈夫よ、コレは唯の痺れ薬だから♪貴方達に使うのは別の薬よ」

 そう言うと永琳は白衣の内側から数本の試験管を取り出し微笑んだ――――それはとても冷たい無慈悲な微笑み。


 永琳が虚空と別行動を取った理由は輝夜捜索の効率化でも人命救助でも、ましてや自身の『あらゆる薬を作る程度の能力』を使って片手間で造った薬の検証実験でもない。
 彼女にしてみれば勝手に居なくなった輝夜の事等どうでもよく、輝夜が不死と知っている為(不老不死にした張本人だから当たり前ではあるが)彼女の身の安全など微塵も気にしていない。
 故に今回の捜索活動に対し少々遺憾の意があった。
 偶然とはいえ虚空との奇跡と呼んでも差支えない再会に歓喜していた彼女はすぐにでも虚空と月に帰還するつもりだ
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