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第一章
ルターの結婚
マルティン=ルターという男がいた。
とにかく過激だ。教会を批判し神聖ローマ皇帝に言われても折れない。とにかく己を曲げずにただひたすら突き進む。そうした男だ。
ところがだ。彼についてだ。修道院の尼僧達は笑いながらこう話すのだった。
「あの人はですね」
「物凄くお節介というか世話焼きなんですよ」
「私達にもよくしてくれますし」
「何かと声をかけてくれて」
そうしてくるというのである。
「いえ、私達もやがてここから出ないといけないですけれど」
「出たらすぐにあれですね」
「結婚しないといけないですよね」
「そうしないとやっぱり」
絶対にだというのだ。これは当時のまさに絶対の考えだ。
その彼女達に対してだ。彼は。
結婚相手をだ。見つけてきているというのだ。
「他にもですね」
「何かと世話を焼いてくれます」
「親切な人ですよ」
「とても」
そうした者だというのだ。ルターは。
だから尼僧達からの評判はいい。それもかなりだ。
だがルター自身はそれについては何も言わずだ。同士の若い僧侶にだ。
真面目な顔でだ。こう話すのだった。
「彼女達はどうかな」
「尼僧の方々ですか」
「うん。いい相手が見つかるといいけれど」
「あの、それは」
だがだ。若い僧侶はだ。
怪訝な顔になりだ。こう彼に言うのだった。
「全てルターさんがお世話しているのでは」
「そうなるのか」
「なります。実際に今もですね」
見ればだ。今ルターはだ。
若い男、貴族や富裕な家の者の肖像画をしきりに見ていた。
そうしてだ。その尼僧達の経歴が書かれた文も読みながらだ。
あれこれと調べ考えている。その彼を見てだ。
若い僧侶はだ。彼に言うのだった。
「お見合いの用意をされているではありませんか」
「いや、女性は幸せにならないといけないんだ」
ルターは何故か言い繕う様にして話す。
「だからね」
「それ故にですか」
「そう。相手はよく選ばないと」
言いながらだ。今もだった。
男の方の肖像画を見る。しかもだ。
彼等についても書かれた文を見てだ。若い僧侶に話す。
「駄目だからね」
「それはわかりますが」
「いいかい?ローマカトリック教会は」
ここでバチカン批判をするのがルターだった。
「女性をどう思っているか」
「奴隷ですね」
「確かに女性はイブの子孫だ」
アダムを誘惑しだ。知恵の実を食べさせたそれだというのだ。こうした意味でルターもこの時代の聖職者でありだ。そこには限界があった。
だがそれでもだった。彼は。
こう言ってだ。バチカン批判と共に女性について言うのだった。
「しかし。結婚は」
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