第五章
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「限界が来たわ」
「飲みましたからね」
「ワイン三本ずつね」
「本当に飲みましたね」
「だからね」
それで、というのだ。
「もうね」
「飲めないですか」
「今日はこれで終わりね」
「はい、じゃあまた明日」
「明日は土曜だから」
「あっ、お休みですね」
「そう、休日出勤はするの?」
美咲はこのことは職業病として問うた、部下の出勤の確認をするのも上司の勤めの一つだからそうしたのだ。
「それで」
「いえ、明日は」
「そう、私もよ」
「じゃあ今日は」
「これでね」
「家に帰って」
「そうしましょう」
酔い潰れる寸前の体でだ、美咲は言った。かろうじてカウンターにうっ伏してはいないがそれも時間の問題といった風を装っている。
その彼女を見てだ、岳は言った。
「あの係長大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」
こう答えたのも計算のうちだ。
「このまま帰られるわ」
「いや、無理ですよ」
「無理じゃないわ」
こう言うと岳がどう動くのかもわかっていた。
「平気よ」
「帰られますか?」
「ええ、だから君はもう帰って」
「係長はお一人で」
「帰るから」
それで、というのだ。
「君はもう帰ったらいいわ」
「あの、それは」
幾ら何でもと返す彼だった。
「駄目ですよ、送ります」
「いいわよ」
内心このまま進めていこうと思う美咲だったが寄ったふりは続けている。
「全然平気だから」
「どう見ても平気じゃないですから」
「じゃあどうするの?」
「送ります」
岳のこの言葉を聞いてだ、美咲は第一関門をクリアーしたと思った。しかしまだそこからだと思いながら続けた。
「そうしますから」
「私のお家まで」
「そうしますから、じゃあ今からタクシー呼びますんで」
「そうしてくれるの」
「そう、ですから」
こう言ってだ、早速だった。
岳はタクシーを呼んでだ、それから。
動けない風に装っている美咲を本当に酔っていると思いながら肩で担いでだ、そうしてタクシーに乗せて美咲の誘導に従ってだ。
タクシーの運転手さんに行ってもらってだ、そしてだった。
美咲の家であるマンションの一室の前に来た、そこで。
美咲にだ、こう言った。
「着きました」
「有り難う」
「鍵は」
「はい、これ」
鍵は手渡した、そして。
岳に扉を開けてもらってだ、それからだった。
美咲は岳にだ、こう言ったのだった。
「有り難う、それじゃあね」
「それじゃあですか」
「お礼するから」
「お礼?」
「部屋に入って」
「いえ、女の人のお部屋に入るのは」
「いいのよ」
ここでは優しく返した。
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