第三章
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その利点を活かして仕事をしていって抜群の功績を挙げている、それが美咲をして杉浦忠の様だと言わしめているところだ、外見は全く違うが。
その彼にだ、ある日のことだ。
美咲はいつものクールな口調でだ、こう声をかけた。
「今夜時間あるかしら」
「今夜ですか」
営業回りから帰って来た彼に言ったのである。
「そう、今夜ね」
「はい、特に予定は」
「ならいいわ」
微笑んでこう言った美咲さった。
「それならね」
「ええと、今夜は」
「飲みに行きましょう」
「あっ、お酒ですか」
「いいバーを知ってるのよ」
クールな表情に口元の微笑みを加えさせての言葉だ。
「そこに行きましょう」
「わかりました、それじゃあ」
「ええ、色々とお話したいことがあるから」
「それじゃあ」
「それとまたかしら」
美咲は岳を見つつこうも言った。
「営業から帰って来たけれど」
「はい、一件契約取って来ました」
「そう、またなのね」
「いや、あちらが快諾してくれて」
「いい感じよ、その調子よ」
「どんどんですね」
「やっていってね」
岳の仕事にハッパをかけることも忘れていない、そしてだった。
美咲は岳をそのバーに連れて行った、そこは適度に暗く洒落た二十世紀前半のニューヨーク、禁酒法の頃のモグリのバーを思わせる店だった。そこのカウンターに二人並んで座ってからだ。
美咲は微笑んでだ、こう岳に言った。
「ここがね」
「係長のですか」
「お気に入りのお店なのよ」
「いいお店ですね」
「そうでしょ、お金と時間がある時は夜はここに入ってね」
そして、というのだ。
「飲んでるのよ」
「そうなんですね」
「カクテルもいいし」
そのタキシードで飾った初老のダンディなバーテンダーが粋にカクテルを作っているカウンターの場にいての言葉だ。
「他のお酒もね」
「いいんですね」
「ワインもブランデーも」
「ワインもですか」
「あるわよ」
「俺実は」
岳は美咲の話を聞いて目を瞬かせてこう言った。
「実はお酒は」
「こうしたお店ではなの」
「はい、学生時代からずっと居酒屋でして」
「そこで飲んでいてなのね」
「それでなんです」
「ワインとかもなのね」
「飲んではいましたけれど」
居酒屋にもワインはある、それでだ。
「こうした場所では」
「そうなのね」
「こうした場所のワインはまた」
「別よ」
居酒屋のワインとは、というのだ。
「種類もね」
「居酒屋はもう騒いで飲むワインで」
「ここはこの雰囲気を楽しんでね」
そうしてというのだ。
「飲むワインだから」
「こうしたクラシックな雰囲気を」
「ここは二十年代のアメリカよ」
一九二〇年代だ。
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