第二章
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「その二つを出すだけの相手でないと」
「獲ろうとしないか」
「そういうことよね」
「そこでそう言うのは流石だな」
美咲の今の言葉にだ、雄太郎は口元を微笑まさせて返した。
「伊達に俺達の期の中で一番の切れ者って言われてないな」
「あら、褒めてくれるの?」
「率直な評価さ、だからな」
「営業部でもっていうのね」
「部長候補とか言われているんだな」
「私の評判はいいけれどね」
「けれど、そんな御前さんだとな」
口元を微笑まさせたままだ、雄太郎は美咲にまた言った。
「ネクストビーイングから声がかかるか?」
「私自身になのね」
「来るんじゃないか?」
こう言うのあった。
「切れ者だからな、御前さんは」
「どうかしら、うちには私より凄い子がいるわよ」
「子?後輩か」
「そう、うちの大エースよ」
今度は美咲が口元を微笑まさせて雄太郎に言った。
「それこそね」
「っていうと前田健太みたいな感じか」
「古いけれど杉浦忠よ」
南海ホークスのエースだ、昭和三十四年には三十八勝四敗という想像を絶する大記録を達成しシリーズでも四連投四連勝を成し遂げた。
「それクラスよ」
「おいおい、あの人クラスか」
「まだ若いけれどね」
「そうか、じゃあな」
「将来はうちをしょって立つ人材になるわね」
「そこまで凄い奴だとな」
それこそとだ、雄太郎は美咲に真剣に言った。
「ネクストビーイングも狙って来るな」
「そうね」
美咲も眼鏡の奥の目を光らせて答えた。
「杉浦さんならね」
「今だったら絶対にメジャーから声がかかってたな」
そこまでのエースだったからだ、これは同じ時代に活躍した西鉄のエース稲尾和久も同じことだっただろう。
「メジャー、つまりな」
「アメリカね」
「やっぱり注意しないとな」
「わかっているわ」
やはり目を光らせてだ、美咲は言うのだった。
「私もね」
「つなぎ止める切り札あるんだな」
「将来の昇進と昇給、あと手柄を立てた時の特別ボーナスはね」
「保障してるんだな」
「流石にはっきりとは言えないけれどね」
野球の世界なら言えるが普通の企業では日本においてははばかれる、だからだ。
「それでもね」
「保障してるか」
「ええ、ただね」
「それでもか」
「もう一つあるわ」
美咲はその目を真剣なものにさせたまま言うのだった。
「彼をつなぎ止める切り札はね」
「それは何だ?」
「見ていて」
ここでだ、美咲は。
その眼鏡を取って切れ長の整った、知的かつクールな趣の目を雄太郎に見せてそうして彼に対して言った。
「そのとっておきの切り札をね」
「随分と自信があるんだな」
「切り札は自信があるからこそでしょ」
「切り札だっていうんだな」
「そう、だからね
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