第一章
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変わった毒殺
八条物産営業第二課係長松川美咲はこの時不安を感じていた。それはどういった不安かというと。
「スカウト?」
「ああ、もっと言えばな」
同期の人事部第三係長池田祐太郎が美先に難しい顔で答える。二人は今社内の給湯室の一つで立ってコーヒーを飲みながら話している。自分達で淹れたインスタントコーヒーだ。
「ヘッドハンティングだよ」
「何処の企業から?」
美咲は雄太郎の言葉を受けて眼鏡の奥の目を鋭くさせた。切れ長で奥二重の整った目だ。眉は細く綺麗なカーブを描いていて鼻が高くその筋もいい形だ。面長の顔に小さな唇がよく似合っている。白い顔は化粧をしなくてもいい色だ。長い黒髪を後ろで束ねて団子にしている。黒い膝までのスカートのスーツを端整にかつ清潔に着こなしている。その彼女が大柄で四角い柔道部にいる様な同期の彼に対して問うたのだ。
「それは」
「アメリカの方だよ」
「ああ、ネクストビーイングね」
「あそこは今日本に進出しようと躍起だろ」
「それでなのね」
「日本人の使える人材をな」
雄太郎は自分が淹れたコーヒーを飲みつつ美咲に話した。
「探していてな」
「うちのところにもなの」
「ああ、結構調べてるらしいな」
「あっちの企業は一気に、しかも確実に来るから厄介ね」
美咲は目の鋭さをさらに強くさせて言った。
「ヘッドハンティングも」
「そうだ、だからな」
「営業の方もなのね」
「注意しろよ」
雄太郎も厳しい声になって美咲に言った、
「何ていっても人材あってこそだからな」
「会社もね」
「いい人材を敵に取られたらな」
「二重にアウトね」
優れた人材を失い敵に優れた人材が入る、それでだ。
「しかもこっちの情報まで入るとなると」
「洒落にならないダメージだ」
「そっちは大丈夫なの?」
美咲はまずは雄太郎に問うた。
「人事の方は」
「だからうちの部長も必死だよ」
人事部を預かる立場としてだ。
「前からそうだけれど色々と部内のスタッフに気を回してな」
「面倒見てなのね」
「ああ、そしてな」
そうしてというのだ。
「うちの会社のよさをわかってもらうようにしてな」
「それでいて情報はなのね」
「漏らさない様にして。ついでに重役のお歴々にもこのことを伝えてるさ」
「そっちの部長さんも必死ね」
「ああ、人材確保は死活問題だからな」
企業にとってだ、それ故にだった。
「部長だって頑張るさ」
「人事部の部長さんが重役の方にまでお話したら」
「絶対にそっちの部長さんにも話が来るぜ」
雄太郎は真剣な顔で美咲に言った。
「御前さんのところにもな」
「絶対にそうなるわね」
「御前さんも気をつけろよ」
こうも言った雄太
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