第四章
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彼は秀忠の側近の土井達にだ、改易を告げられた。
この時彼は観念していた、もう全ては終わったと。それで潔くこのまま去ろうと思った。誇り高い彼はそうすることを選んだ。
だが秀忠はだ、土井達に言われるままその彼に言った。
「ではせめてものな」
「せめてとは」
「御主はこれまで幕府の為に働いてくれた」
土井達が言ったことをそのまま言うのだった。
「それでじゃ、礼として五万石をやろう」
「五万石ですか」
「その五万石で静かに過ごすのじゃ」
こう正純を見下ろしつつ言うのだった、しかし。
土井達の読み通りだった、正純はここで思った。
三万石までなら受けた、隠遁するにしてもだ、。だが五万石となるとだった。
かえって多い、それにもう石高にも誇り故に潔く去ろうと思っているからだ。それで秀忠にこう答えたのだった。
「いえ、それは」
「よいというのか」
「はい、それがしはもう何の未練もありませぬ」
権勢にも石高にもというのだ。
「ですから」
「それでと申すか」
「はい、ですから」
それで、とだ。秀忠に言うのだった。
「遠慮させて頂きます」
「その言葉翻さぬか」
「はい」
正純は言うのだった、そして。
秀忠はここで怒ってみせた、そのうえで正純を処罰したのだった。
こうして本田正純は失脚し蟄居扱いとなった、幕府の中で居丈高に権勢を振るっていた彼がいなくなったことに多くの者が喜んだ。
それは秀忠も同じだった、ことが済んでから胸がすっとした顔で土井達に言うのだった。
「丁渡よかったわ」
「はい、これでですな」
「もう上野介殿のことを気にせずに済みますな」
「これまでは何かとでしたが」
「気にしなくてなりませんでしたが」
「あの者がおらんようになった」
それで、というのだ。
「気兼ねなく政が出来る」
「ですな、よいことです」
「あの方は力を持ち過ぎていました」
「それに謀があまりにも得手で」
「このままでは、でした」
「そういうことじゃな。あの者は除くべきじゃった」
秀忠も険しい顔で応えた。
「これからの幕府の為にもな」
「そういうことですな」
「あの御仁はもういてはなりませんでした」
彼等は己の感情も含めていたが何よりも幕府のことを考えて言うのだった。
「功臣でも力を持ち過ぎてはなりませぬ」
「そして謀はこれからの幕府にはいりませぬ」
「尚且つ不遜で敵を作る御仁なぞ」
「もう幕府には謀はいらぬ」
秀忠は側近達に述べた。
「仁を守ること、義を守ることじゃ」
「その二つこそです」
「幕府は大事にしていきましょう」
天下が泰平になり謀が不要になったならばというのだ、秀忠と幕臣達はそのこともまた見据えていたのである。これからの幕府に必要なものを。
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