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打たれた後で
第四章
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「そや、あいつもや」
 山田にしてもというのだ。
「あそこで王に打たれんとな」
「わからなかったですか」
「速球だけでは限界があるということが」
「そや、痛いホームランやったけどな」
 何しろその試合だけでなくシリーズを決めてしまった一打だ。西本にしても決して忘れることのない一打だった。
 だが西本は己のことは置いておいてだ、こう言ったのである。
「あいつはそれで大きくなったわ」
「打たれてこそ」
「それがあってこそですか」
「そや、あの一打があいつを育てたんや」
 こう言ってだ、その投げる山田を見る。山田のシンカーが唸りそしてだった。相手のバッターを見事に打ち取っていた。
 山田久志はシンカーを武器にして勝ち進みアンダースローのピッチャーで最高の勝利数を残し阪急黄金時代のエースとなった、その彼を作ったのはシリーズにおいての王貞治のホームランだった。打たれた山田はそのことを忘れずにシンカーを覚えた、それが彼を大エースにしたということは実に面白いことであると言えよう。


打たれた後で   完


                              2014・12・16
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