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【銀桜】7.陰陽師篇
第4話「槍ニモ負ケズ」
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ず、ぼーっとしていることがある。
 虚空を見つめるようなあの瞳は、あの時と似ている。
 もしかしたら今も狂気の衝動に駆られて、無理矢理抑えこんでいるのかもしれない。
 過激な毒舌が絶えないのは、抑えた欲求からはみ出た感情の顕れだろうか。だとしたら双葉はまだ狂気に縛られている。
 そんな妹を前にして、自分の生き方に迷いが生まれ始めていた。
 変わらないと割り切って振り返らないようにするのは、過去の過ちから目を背けることじゃないかと。
――……なに迷ってんだよ、らしくねェな。
――俺は俺の美しい生き方して俺の武士道貫くだけよ。
――そうだろ。別に俺は……。

『逃げてる』

 妹から逃げてる。
 双葉が自分で決めた道ならそのまま歩かせればいい。アイツは強いから大丈夫だと信じていた。
 だがそれは、そう思いこんでただけじゃないのか。
 勝手に信じて全部押しつけて、放っておいただけじゃないのか。
 双葉は今も狂気の衝動に駆られている。
 あの時止めもせず、そのまま狂気の道を歩ませた自分のせいで。

――俺はアイツから逃げてんのか?
――アイツは俺が護りたいモンの一つだ。今も昔も変わらねーよ。
 だが、どうしてそう思うのだろう。
 今あるこの気持ちは、双葉を傷つけてしまった罪悪感からなのか。
 晴明は妹を護り抜こうとするが、結野アナに負い目を感じているからか?
 負い目があるから護る……そんなのは罪悪感から逃れたいただの自己満足だ。
 なら辛い想いをさせてしまった妹に、自分が抱いてるのは何だ?
 ずっと心の中に雲がかかって何も見えない。
「そこまでして結野アナを護ろうとしてんのは、その負い目のためなのか」
 内心で渦巻く戸惑いを銀時は尋ねてみた。
 別に迷いを無くすためじゃない。
 ただ聞いてみたくなったのだ。
 たった一人の妹を背負う、もう一人の『兄』に。
「……負い目か。いや、ただ妬んでいただけなのかもしれぬ。己の格式を護る為だけに力をふるうわしに比べ、人々に天気を伝えるためにいきいきと力を使うアイツが羨ましかったのかもしれぬ。だが、テレビに立つアイツを見て気づいたんじゃ」
 物憂げに答える晴明は、テレビに映る妹を見据える。
「人々に天気と笑顔を伝え幸せに導いているアイツは、わしよりよっぽど偉大な陰陽師じゃと」
 その表情から少しずつ陰が晴れゆく。
 また彼の言葉は、銀時にかかっていた雲も少しだけ晴らした。
「わかるか。クリステルは結野衆(わしら)の『誇り』であり――」

「わしの自慢の妹なんじゃ」

 そう言い切る晴明を覆う陰は、もうどこにもない。
 雨が降る中を澄んだ微笑を浮かべて、晴明は巳厘野衆の屋敷へ歩いて行った。


 晴明にあったのは負い目でも罪悪感でもない。

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