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【銀桜】7.陰陽師篇
第4話「槍ニモ負ケズ」
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分がどれだけ愚かだったか、どれだけ妹が大切だったか。
 それは無数の式神を使っても見えなかったモノだ。
「全てを見通し江戸を守ってきた最強の陰陽師が聞いて呆れるじゃろう。いくら無敵の式神を使おうと 見えやしない。本当に大切なモノは、この両の眼で見据えねば見えやしないのじゃ」
 だが見えた時はもう遅かった。
 自分勝手に妹を政治の駒に利用し、自分勝手に道満から妹を奪い、目先だけの利益を求めた結果――仲間も、妹も、かつての親友も失ってしまった。
「全てわしの仕業じゃ。道満を闇の道へ(いざな)ったのも、止まぬ雨の中にクリステルを立たせてしまったのも。……同じ兄として軽蔑するであろう」
 自嘲めいて晴明は言う。護りたかったモノを雨の中に追いやった自分は、誰からもけなされて当然だと。
 だが、銀時は責めも蔑んだ目で見ることもしない。
 ただ彼も自嘲気味な表情を浮かべ、言った。

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 一体何のことを言っているのか分からなかったが、晴明は聞けなかった。
 その瞳はあまりにも遠いところを見ているようだったから。
「ところで義兄上、ソイツはなんですか」
 晴明が戸惑っていると、話をそらすように銀時は彼の懐から見える手紙を尋ねた。
「誰が『義兄上』じゃ。道満から送られてきた書状じゃ」
 溜息をつく晴明から手渡された書状には【家柄と妹のどちらも護りたければ『式神タッグ呪法デスマッチ』で巳厘野衆と勝負せよ】と書いてあった。
 両陣営から術者を三名選出して召喚した式神とタッグを組み戦の勝敗を決する陰陽師式の武闘大会で、両家の因縁とお天気戦争に決着をつけようというのだ。
 つまり果たし状である。
「なるほど。結野アナだけじゃ飽き足らず義兄(あに)様まで直接潰しにかかってきたか」
「わしはいつからぬしの『義兄様』になった」
「お義兄(にぃ)も根暗陰険男に目つけられて大変ですねェ」
「わしはぬしのお義兄ではない。オイ、いい加減にせい。どんだけ親族に食いこもうとしとるんじゃ。 勝手に『義兄』呼ばわりされ、迷惑してるこっちの身も考えんか」
「いやいやお義兄たまの気持ちよくわかりますよ。俺も昔同じことされましたから」
 そう言って、銀時はフッと思い出す。
 攘夷戦争で出会ったあの関西バカを。
――そういや…アイツもよく笑ってたっけか。
 にんまり笑って勝手に『お義兄さん』と呼んできたアイツ。
 いつも笑ってばかりでムカつく奴だったが、アイツの笑顔は見てて嫌じゃなかった。
 むしろ逆だ。戦いで重苦しい空気の中にいても、アイツが笑えばみんな笑った。
 暗い空を明るく照らすような、不思議な奴だった。
 双葉に惚れたアイツからいつも『お義兄さん』呼ばわりされ迷惑してたが、気づけば自分も似たような事をしていた。

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