2ndA‘s編
第十八話〜立つは誰がために〜
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を十分な返答とみなしたのか、再び目的地の方に進もうとし始めたのだ。既に立つことは諦めたのか、残った右腕に力を込め這うようにして進もうとする姿はどこか狂気じみたものを感じさせる。
その姿に一瞬呆けそうになるが、彼女はすぐさま思考を切り替えライの傍に近づきしゃがみ込む。
「待ちなさい!これ以上は本当に死んでしまうわ」
止められるとは思わないが、肩を掴むリンディ。すると嘘の様に簡単にライの進行が止まる。その手応えの軽さにゾッとする。
先の戦闘であれほどの戦闘をこなした魔導師が、女の細腕一本で簡単に止められる程に弱りきっているのだ。その感触で今目の前にいる一人の人間の命がどれほど危険なのか嫌でも理解させられた。
「時間がない」
止められたことで、再度リンディの方に目を向けるライ。そしてうわ言のように発した言葉にリンディは既にライが正気を失っていると疑った。
「何を――――」
「僕にも、リインフォースにも」
その言葉を聞き、リンディは息を呑む。
理解できてしまったのだ。リンディはライと出会う前にクロノから報告を受けていた。その内容は夜天の書と管制人格の完全消滅。そしてその内容を知っていたからこそ、今のライの言葉の意味を正確に汲み取ることが出来ていた。
そして、その上でリンディはライと言う存在に恐怖を抱く。この際、何故今まで寝ていたはずの彼がリインフォースのことを知っているのかは置いておいて、自身が死んでしまうかどうかの瀬戸際で尚、彼女を救おうとあがこうとするライの姿はどこか強迫観念じみていると。
「どうして」
呆然とした呟きをこぼした彼女に目の焦点を合わせることができたのか、ライはやっと自分のすぐ真横に彼女がいることを理解する。
そのことで自分が危険な状態であることを改めて理解できたライは数秒黙り、考え込む。そしてある結論にたどり着いたのか、徐ろに右腕にまいている包帯を口で器用に解いていく。
「何をして――――!」
いきなりの彼の行動に、制止の声をあげようとしたリンディであったが、全てを言い切る前にその言葉を飲み込み、逆に手を口に当てて声が漏れるのを押さえ込もうとする。
「これが僕の時間が残り少ない理由です」
淀みなく出てきたその言葉を全て理解できる訳もなく、彼女は“それ”を凝視する。
「透け……ている」
絞り出すようにして出てきた彼女の言葉にライは頷きで返した。
彼女の言ったとおり、ライの右腕は寿命を迎えた電灯が明滅するように不安定に透け始めていた。
「事情は全て話します」
ライの言葉にハッとするように、彼女の視線はライの方に戻った。
「だから、僕を連れて行ってください」
赤い鳥が羽ばたくことはなかった。
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