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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第三十二話 真の勝利
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った。
突如として揺らぐ唯依の視界、胸に鈍い痛みが走る。息苦しく胸を突き破りそうなほどに心臓が動悸を打つ、頭を割りそうなほどの頭痛。

「唯依っ」

倒れる彼女の体を支えたのは隻腕の蒼を纏う青年―――忠亮だった。
武道を嗜むが故の考えるよりも先に体が動くのはこういう時に便利だった。
「ど、どうなさったのですか!?」
「貴方がまず落ち着きなさい―――様子を見る限り、精神性のモノと思うわ。」

突然の事態に慌てふためく清十郎を宥める今井少尉。本当に突然死してしまいそうなほどに唯依の顔色は悪く、息は激しい。

だが、その見解は忠亮も彼女と同じだった。

「唯依……。」

苦しそうな唯依を悼む表情を取る忠亮は最愛の女の名を呟く……そして、その直後彼女の唇を奪った。
そして、唯依の口から吐かれる息を口内に含み、反射的に息を吸う彼女に戻してゆく。

「斑鳩大尉こんな時に何をっ!?」
「いや、この対処は正しい。たぶん篁中尉は過換気症候群だ。僕との再会が彼女の心に刻まれたトラウマを呼び起こして脅迫障害か、それに類する症状を起こしたんだろう。
 ……戦術薬物や催眠暗示が不完全だったころの大陸の前線で同じ症状を何度か見たことがある。」

忠亮と同じく大陸派兵に参加した経験を持つ甲斐は忠亮の意図を正しく理解していた。今のような戦術薬物と催眠暗示がモノになった状態では余り目にかかれない事案である。
 今の唯依の状態は過呼吸により血中酸素濃度が高くなりすぎて血液が中性からアルカリ性に傾いている、その為酸素の供給をある程度絶ち、血液のバランスを元に戻す必要があった。

また、このような症状の際に発症者が自力回復するのはかなり困難である。


「一般的には紙袋かハンカチで吐いた息を吸い込むんだけど、口づけでも有効……要は血中酸素濃度を落とせばいいだけだからね。
 にしても、君に似合わず優しい対応だね。大陸だと同じ症状の人間の口を無理やり塞いで直していたのに。」

苦笑しているのが見ずとも分かる声色―――確かに大陸ではストレスから過呼吸を起こした兵の口を鷲掴みにして強引に口塞ぐことで対処していた。
正直、倒れられても丁寧に処置を施すのも面倒だったので雑な対応だった。
大概の人間はもう少しなんとかならないのかと抗議を受けるのだが……面倒だと一蹴した記憶しかない。

彼らが今の自分を見たら仰天するのかもしれない―――もう、みんな居なくなってしまったが。

「……ただ、あき…さん。」
「落ち着いたか?」

「はい…お手間を―――」
「いい、そんな下らないことを口にするな。」

どうにか呼吸が落ち着き、言葉を発せられるようになった唯依が申し訳なさそうに腕の中で呟く。
そんな彼女の謝罪を無用と両断する忠亮。

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