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傾城
4部分:第四章

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第四章

「三枚の厚い麻布で目を覆ってくれ」
「麻布で、ですか」
「そうせよと仰るのですか」
「そうされよと」
「そうだ。伍子胥の言う通りになってしまった」
 王は絶望しきった声で話していく。
「わしは国を滅ぼしてしまった。それでどうして伍子胥に会うことができようか」
「では王よ」
「布を用意しますので」
「では」
 こうしてだった。呉王は自ら死んだ。呉は越によって滅ぼされた。それを見届けてだ。越王は言うのであった。
「我が望みは適った」
「はい、越を滅ぼすことですね」
「そのことがですね」
「遂に成りました」
「我等の望みが」
「いいことだ」
 また言う王だった。そのことはというのだ。
「だが。西施はだ」
「西施はどうされますか」
「彼女が呉を滅ぼしたと言っていいですが」
「功はかなりです」
「では彼女は」
「国に入れるな」
 王は厳しい声で臣下の者達に話した。
「決してだ。よいな」
「越にですか」
「入れるなと仰るのですか」
「そうだと」
「そうだ。呉を滅ぼしたのだ」
 王が話すのはその事実だった。
「それでどうして越を滅ぼさぬと言える」
「そう仰るのですか」
「私もあの娘には見惚れてしまった」
 語る王の顔に危惧するものが走った。それは王にとっては喜ばしいことではなかった。彼女の美をだ。王は明らかに恐れていたのだ。
 それを話してだった。王は臣下に述べていく。
「私も呉王の様になってしまうだろう」
「だからこそ彼女を越には戻さない」
「そう仰るのですね」
「何があろうとも」
「西施は越に戻すな」
 それは絶対というのだった。
「わかったな」
「わかりました。それではです」
「そうしましょう」
 こうしてなのだった。西施は王にだ。越に入れないことになった。それは即ちだった。
 呉から川を舟で戻る西施にだ。兵達が告げた。
「そなたは越に入るな」
「ここから先は通せぬ」
 こう言うのであった。
「決してだ。よいな」
「逆らうならここで川に放り込む」
 つまりだ。殺すというのだ。
「そうする。だからだ」
「ここから先は戻るな」
「それは何故ですか?」
 故郷に戻れぬと言われてはだ。悲しくならざるを得なかった。西施はそのこの世のものとは思えぬ美麗な顔に悲しみを浮かべてだ。問うのだった。

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