九話:フェイト・テスタロッサ
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ような表情になる。二人は、ヴィクトルはそのようなことを絶対にするような人間ではないと思っていた。信じていた。だが、その信頼は彼自身により壊された。
「私はプレシアと同じように“娘”を利用し大切な者を取り戻そうとした……。ルドガーを娘に分史世界に連れて来させそこで、ルドガーを殺し本物と成り代わろうとした」
「正史世界では同じ物は同時には存在できないんだ」
ヴィクトルの話にルドガーが軽く付け加えるがフェイトには聞こえていなかった。ずっと優しい人だと信じていたヴィクトルが平然と冷酷な事をしていたことにショックを受けたのだ。それはアルフも同じだったらしく、様々な思いを籠めた目で見つめながら立ちつくしていた。
「ちょっと、待ってくれ。正直話が複雑で全ては分からないんだが、仮に成り代わって正史世界に行ったとして、どうするつもりだったんだ?」
クロノがどうしても納得がいかないと言った顔で尋ねて来る。ヴィクトルは様々な思いを込めた声で答える。
「どんな願いも一つだけ叶えてくれる場所―――『カナンの地』。私はそこに辿り着き生まれ変わりを望むつもりだった……かつて妻や兄が居たあの頃に戻るために」
リンディは最後の言葉にヴィクトルの妻や兄を想う気持ちを痛い程に感じて胸を痛める。彼女もまた大切な人を失った人間なのでその気持ちは良く分かるのだ。
「そんなおとぎ話のような場所を本気で信じていたのか?」
「残念だけどおとぎ話じゃないんだよな、これが。現に俺はカナンの地に辿り着いて全ての分史世界の消去という願いを叶えた」
「全くだ。本当におとぎ話だったのなら私達の一族は―――二千年もの間、骨肉の争いを繰り広げることもなかったというのにな」
クロノは余りにも現実味のない話におとぎ話だと切って捨てるが、実際にその場所に辿り着き願いを叶えたルドガーがクロノに返答し、ヴィクトルがヒンヤリとした声で続ける。その声にクロノは自分が言ってはならないことを言ってしまったのだと気づきバツが悪そうに喉を鳴らす。
「まあ、現実味のない話だというのは分かるけどな」
「それで……ヴィクトルさんの娘さんはそれからどうなったんですか?」
一刻も早くヴィクトルの娘がその後どうなったのかを知らなければならないと感じていたフェイトが話の流れを切るように聞いてくる。彼女はどうしても自分と同じように偽物と呼ばれた少女の行く末を知らなければならないと強く思っていた。
「私がルドガーに敗れ世界と共に消えた後は……ルドガーに聞いてくれ」
ヴィクトルは自分では話せないと、ルドガーに話を任せる。周囲の視線がルドガーに移ると彼はゆっくりと話し始める。
「あの後は、エルは今のフェイトみたいに自分が偽物だって苦しんだ。……一番辛かったのは父親に否定
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