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マルコムの好物
3部分:第三章
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第三章

「頼めるか」
「何かよくわからないけれどな」
「いいけれどな」
 ローズ達は食べながら彼に応える。その羊のすね肉を主にだ。マトン独特の香りと香辛料の香りが絡み合ってそこに絡み合っている。
「それはな」
「ああ、席一つあるしな」
「ほら、そこに座りなよ」
「遠慮はいらないぜ」
「わかった。それではだ」
 声の主がその空いている席に座った。するとだ。
 彼等が見たその男は。信じられない男であった。
「えっ、あんた」
「あれじゃねえか。マルコムじゃねえか」
「マルコムエックスじゃねえか」
 その引き締まった精悍な顔、短く刈った赤い髪、それに眼鏡。誰がどう見てもだ。マルコムエックスに他ならなかった。
「何であんたがこんなところにいるんだよ」
「どうしてこんな店にいるんだよ」
「何でだ?」
「この店が羊とアイスが美味いと聞いたからだ」
 マルコムはその厳しい顔をそのままにして話してきた。
「それでだ」
「それでって」
「確かにその通りだけれどな」
「けれど羊にアイスか」
「それか」
「そうだ。しかし」
 ここでだ。彼はローズ達が今食べている羊を見てだ。こう言うのであった。
「私も君達と同じものを食べるがだ」
「あ、ああ」
「そうなのか」
「その前にだ」
 見ればだ。羊のすね肉を見る目が熱い。
「一切れでもいいからこの羊の肉を」
「食べたいっていうのか」
「そうなのかよ」
「いいだろうか」
 こう彼等に申し出るのだった。
「それで」
「まあいいけれどな」
「それだったらな」
「ああ、それじゃあな」
 彼等は戸惑いながらもだ。マルコムの言葉を受け入れた。そうしてであった。
 マルコムはその羊のすね肉を食べはじめた。その食べ方がだ。
「何かあんた貪る感じだけれどな」
「そんなに好きなのかよ、羊」
「大好きだ」
 その通りだというのである。
「特にこのすね肉を煮たのがな」
「好きか」
「大好物なんだな」
「大好物などというものではない」
 それを超えているとさえいうのだ。
「それこそ。目の前にこれがあれば」
「食わずにはいられない」
「そこまでかよ」
「羊はいい」
 彼はこうも言った。
「とにかく美味い」
「まあそうだけれどな」
「確かに羊は美味いけれどな」
「カロリーも少ないしな」
 それで人気のある肉なのだ。アメリカでは羊もよく食べられるのだ。アメリカ人はとにかく何でも大量に食べる国民なのである。
「それでも今のあんたは」
「本当に美味そうに食うな」
「いや、意外っていうか」
「そこまでか」
「意外か?」
 食べながら彼等に問うマルコムだった。
「それは」
「意外っていうかな」
「何か、あんたが食う場面ってな」

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