第七十六話
[3/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
「それならいいけどな……」
どんな検査をしようが体力の低下以外には何もないような、そのまま退院したような健康優良児を心配する必要はなかったらしい。安心しながら再び食事に戻ると、俺の顔の前にパック式のフルーツジュースが向けられた。まるで銃のように。
「そんな景気の悪い話より、今日の集合時間忘れちゃいないわよね?」
「……行儀悪いですよ、里香さん」
さっきまでサンドイッチを忙しなく食べていた様子はどこへやら、とても上品っぽく見せかけた珪子が里香に注意する。紅茶のカップの持ち方が違っていたりと、かなりの付け焼き刃なのは素人目にもよく分かるが。まあ、それでも里香よりはいいか。
「ドレスコードとかあるような場所じゃあるまいし……そんな細かいこと言う奴は、こうよ!」
里香がどこからともなくポッキーの袋を取り出すと、その中から一本を取り出して珪子の口に運ぶ。すると、珪子がリスのようにカリカリとポッキーを食べ始めていき、いつしか一本まるごと珪子の栄養になった。
「珪子は栄養つけなきゃいけないしねー」「それは栄養は……どこ見て言ってるんですか!?」
そんな様子を微笑ましく見物しながら、ポッキーを一本拝借しながらコーヒーのお供とする。甘さと苦さが口の中でせめぎ合いながら、ランチを食べ終わり礼をする。
「……で、翔希?」
「あー……それは忘れてない。里香こそ診察の時間と被ってたりしてないか?」
一瞬里香に何を聞かれているのか忘れてしまったが、そういえば今日の予定が大丈夫かどうか聞かれていたのだった。もちろん俺は大丈夫だと里香に聞き返すが、里香は「大丈夫大丈夫」という風に手を振ると、珪子の口にさらにポッキーを投入していく。里香が面白がって遊んでいる間に、ランチのお盆を食堂に返していくと、次の授業は何だったかと予定を確認する。
「次の授業、里香と同じだっけか?」
「んー……そうね。倫理でしょ?」
いい加減珪子に怒られたらしい里香がポッキーをしまいつつ、お詫びのように珪子のゴミと自分の分を合わせ、しっかりと近くのゴミ箱へと入れる。こう見えて里香はなかなかの優等生だったらしく、授業ではかなりの高成績を収めていた。
「あの授業眠くなるのよねぇ……」
「寝ててあれだけ取れれば上出来だろ、今度ノート見せてくれ」
それでもたまに、昼食後に昼寝へと移行することがあったが。昼寝してても自分より成績がいいと、家での予習復習が出来ている証なのだろうが、なんとも不公平だと感じさせる。
……などと、そんなことを考えている間に、授業の予鈴が学校中に鳴り響く。俺と里香は既に食事を終えて立ち上がっていたが、里香にさんざんポッキーを食べさせられ珪子のみ、未だ目の前に食材が残っていた。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ