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小松原源五郎教授の書斎
2部分:第二章
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変わったな、教授も」
 気付く者は気付いていた。
「変わった!?」
「ああ。前程本を読まなくなったな」
「そういえばそうだな」
「あれはまた何でだ?」
「本以外にも興味のあるものができたんだろう」
「奥さんのことか」
 外れてはいないが真相を知らない言葉であった。
「多分そうだろうな」
「ううむ、実に意外だ」
 皆異口同音にこう述べた。
「結婚しただけでなく愛妻家にまでなったとは」
「こりゃ近々大変なことが起こるな」
「地震でも来るかな」
 だがこれは実際には何時でも来るものだ。たまったものではないが日本ではとかく地震が多い。戦争よりもこちらの方がずっと怖い程だ。戦争は外交的努力で避けられるが地震はそうはいかないからだ。
「おいおい、縁起でもない」
「さもなければ雷か火事や台風か」
「だから縁起でもないって」
「いや、本当に信じられないからな」
 それだけ小松原教授とちずるのことが信じられないのだ。
「まさかなあ」
「まあそうだが」
「けれどまあ教授も人間だったということだな」
 ここで実に失礼な言葉が出て来た。
「奥さんを持ってそれを好きなんだから」
「そうなるかな」
「そういうことだ。まあここは祝うとしよう」
「ああ」
「朴念仁だった教授が真人間になったことに」
「乾杯というか」
 何だかんだと理由をつけて飲み屋へ向かった。この時代の学生も何かあれば飲みに行くのは変わりはしなかった。これは教授達も同じであった。
 とかく教授とちずるのことは話題になっていた。しかし二人はそれを気にしてはいなかった。
 二人は仲睦まじい夫婦となっていた。誰の目から見ても普通の夫婦に見えた。
 本当のことは二人だけが知っている。二人しか知ることが出来なかった。


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