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小松原源五郎教授の書斎
2部分:第二章
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「ここって京都かい?」
「はい。お役所の住民票ってやつも簡単に書き換えられますし」
「そんなことができるのか」
「私は本の世界にいますから」
 答えになっているようななっていないような返事だった。
「そんなの簡単ですよ」
「簡単っていうけどね」
「中に入って書き換えればいいんですから」
「それで済むのか」
「はい。それで私は目出度く京女に」
 鮮やかな赤い色の袴をひらひらさせながら言う。
「うら若き都の乙女と一緒。先生、果報者ですよ」
「今一つ信じられないなあ」
 ちずるの軽い調子に不安を拭いきれないのだ。
「そんな簡単に話が済むのだろうか」
「こっちの世界だけならそうもいかないでしょうね」
 ちずるはあっけらかんとして言った。
「けれど私は元々こっちの世界の人間じゃありませんから」
「大丈夫なのか」
「そういうことです。それじゃあ帰りましょう」
「うん」
 ちずるに促されるまま研究室を出て家に帰る。もう暗くなった京の道を二人で歩いていく。
 古い背広を着て帽子を被ったまずは品のいい格好の教授と鮮やかな女学生姿のちずる。お似合いとは少し言い難い組み合わせの二人が夜道を歩いているのはおかしいと言えばおかしい光景であった。
「道は知ってるよね」
「勿論ですよ」
「やっぱり知ってるかい」
「地図の本に入ったこともありますから」
「そうなのか」
「私は本なら何処にも入り込めるんですよ」
「羨ましいな」
 教授はそれを聞いて思わずこう呟いた。
「何処にでも行けるなんて」
「けれどどれは先生が本を読んでいる間だけですよ」
「そうだったね」
「それに。今は先生のお側にいる方が」
「ここへきてお世辞かい?」
「違いますよ」
 ちずるは笑ってそれを否定した。
「だって先生を選んでここへ来たんですから」
「僕をかい」
「そうですよ。本が好きな人だから来たんですよ」
「へえ」
 そう言われて悪い気はしなかった。
「ですから。宜しくお願いしますね」
「うん、わかったよ」
 こうして二人は一緒になった。教授ははじめて若い女性と二人暮しとなりこれまでとは全くうって変わった幸せな日々を過ごすようになった。そしてそれは学校の中でも噂になった。
「最近小松原教授変わったな」
「ああ」
 生徒や教授達も口々にそう噂し合った。
「何でも結婚したらしいぞ」
「嘘だろ、それは」
「いや、本当に。それも若くて綺麗な女の人だ」
「本当なのか、それは」
「つい最近まで女学生だったらしいな」
 そういう触れ込みになっている。誰もちずるの本当の姿を知りはしない。知ることも出来ない。
「羨ましいな、それは」
「まああの本の虫の教授に奥さんができただけでも驚きだが」
「まあな」
「ただ。ちょっと
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