1部分:第一章
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たものを否定しないのである。
「いえ、人間です」
「けれど本の世界から出て来たって」
「教授」
ちずるはまた笑って言った。
「こっちの世界だけが世界じゃないんですよ」
「というと?」
「他にも世界は一杯あるんですよ」
「一杯って」
はじめに聞いただけではどうにもピンと来ない言葉だった。
「今僕がいる世界だけじゃなくて他にも世界があるのか」
「そうですよ」
見ればちずるはやっぱり笑っていた。
「本の世界もそうですし」
「ふむ」
「まあこっちの世界だけってことはないということですよ」
「そうか、面白い話を聞いたよ」
教授は思わず顔をほころばせた。本ばかり読んでいる彼が人との話で顔をほころばせるのはかなり珍しいことであった。
「本の世界のことは」
「こっちの世界には前から来たいって思っていたのですよ」
「前からか」
「けれど。中々来れなくて」
「それはまたどうしてだい?」
「本のせいですよ」
「本の」
「はい」
ちずるは言った。
「実は教授がいつも本を読んでおられるので。私が出られなかったんですよ」
「またおかしなことを言うな」
教授はそれを聞いて目を丸くさせた。
「私が本を読んでいると君が出られない」
「そうなんですよ」
ちずるは頷く。
「試しに本を開いて下さい」
「うん」
言われるまま本を開く。するとちずるは急に姿を消した。
「あれっ」
見ればちずるは何処にもいない。まるで煙の様に消えてしまっていた。
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