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小松原源五郎教授の書斎
1部分:第一章
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を見回す。
「ええと」
 見れば丁度いい便箋があった。若い女性が描かれている。袴の女学生だ。
「これはちょっとなあ」
 実は教授はこうした格好の女学生に抵抗があるのである。
 実は大正時代に流行ったこの袴の女学生というのは最初かなりはしたない格好とされていたのである。袴は男がはくものである女がはくものではないと思われてきたのだ。これは若い娘が外を出歩く際に悪い虫がつかないようにと男の様な格好をさせたからである。なおこの格好は明治帝も不快感を表わされたと言われている。だが後に下田歌子が自身の学園である実践女子高等学校において正式に制服として定められてからようやく受け入れられたのである。ちなみにセーラー服は海軍の服装である。
「まあいいか」
 だがそこにある女性の絵自体はよかったので使うことにした。それをページに挟み閉じる。その時だった。
「はじめまして」
 急に隣から若い娘の声が聴こえてきた。
「!?」
 教授はそれを聞いた時まずは幻聴かと思った。
「気のせいだな」
「あの」
 だがそんな彼にまた声をかけてくるのだ。
「御聞きですか」
「聞こえているけれど」
 どうやら本当に誰かいるらしい。声がする隣を見た。
「君は誰なんだい?」
「おわかりになられませんか?」
 見ればそこには若い女学生がいた。
「君は!?」
「私ですよ」
「私ですよと言われても」
 この歳まで独身だったのは伊達ではない。彼にとっては見たこともない若い娘がそこにいたのだ。
「いきなり出て来られても。君は誰なんだい?」
「ちずるといいます」
 女学生は名乗った。
「姓は・・・・・・橋野とでもしておきましょうか」
 その白く整った顔に笑みを作って言った。見れば目は切れ長で形がよい。唇は赤く小さい。そういえば何処かで見た顔である。
「しておくってじゃあ今までなかったのかい」
「はい」
 ちずるは答えた。
「実は名前も」
「何か訳がわからないな」
 教授はそれを聞いて首を傾げるしかなかった。
「いきなり僕の隣に来て名前も姓も今作りましたって。おかしいじゃないか」
「おかしいですか?」
「おかしくなかったら何なんだよ。名無しだなんて」
「今本の世界から出て来たばかりですから」
「本の!?」
「はい」 
 ちずるは悪戯っぽく笑って答えた。
「本の世界から」
「ってここからかい」
「そうですよ」
 教授は本棚にこれでもかと並べられた本の山を指差して言う。ちずるはそれに対して笑いながら答えるのである。
「それが何か」
「じゃあ君は人間じゃないのかい」
 何かと科学的なものが尊ばれていた時代であったが彼は全てにおいて科学を優先させる男ではなかった。
 本を見れば何かと妖怪や幽霊といったものが出て来る。彼はそうし
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