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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第117話 リリーフ
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通ならば簡単に承諾出来るリードではない。しかし、今回に限って有希の判断に否を挟む心算もなければ、能力も持って居ない。

 ゆっくりと振り被り――
 コースは気にする必要はない。それよりも重要なのはキレ。腕のしなりと振り。それに手首でボールに回転を与える事を重視。
 普段の俺のカーブはリリースされた瞬間から変化を開始する変化球。故に変化量は大きくなるのですが、キレ……つまり、打者の手元でククッと曲がる変化球ではない。

 これは予測されると非常に危険な変化球と言う事となる。

「ストライック!」

 しかし、有希のリードに従って真ん中辺りに投じられたカーブは自称ランディくんにあっさりと見逃され、ワンストライク。
 ハルヒの時とはまったく違う、急にバッターの思考を読む究極のキャッチャーに変身したかのような巧みなリードを披露する有希。

 尚、当然のように、これは有希がプロ野球のトップレベルのキャッチャーとなった訳では有りません。まして、相手の思考を読んで居る訳でもない。これは、彼女が契約を交わしている運命の女神フォルトゥーナの能力。

 二球目の【指示】に対して、軽く首肯く俺。
 有希が選択したのはシンカー。俺のシンカーは人差し指と中指を使って内側にひねりながら抜く感覚。
 但し、問題がひとつ。いくら俺が器用だと言っても、野球に生涯を掛けている訳ではない。つまり、他の変化球に比べてシンカーは肘に負担が掛かっていると言う事。

 一イニングにシンカーを多投すると流石に――

 踏み込んで来る自称ランディくん。しかし、そのバットの軌道の更に外側へと向かい、急激に曲がりながら落ちて行くシンカー。

「ストライック、ツー!」

 俺の投げた球にしては乾いた良い音を有希のキャッチャーミットが鳴らした一瞬後に、主審のコールが響く。
 その瞬間、応援団から黄色い声援が跳ぶ。悲鳴や野次ではなく、声援である事に感謝。未だ、辛うじて人の和はコチラの方に有り。この状態ならば、有希が見る未来が黒く塗りつぶされている、……と言う結果しかない。絶望しか選びようがない選択肢だけが残されている状態ではない、と言う事に成りますから。

 そう、女神フォルトゥーナ。今年の二月に訪れた俺。前世か、もしくは来世の俺が有希に渡した宝石に封じられた式神。その運命神の能力は未来を読む事。
 但し、完全に未来の事象を読んで仕舞うと、その未来が自らの望みと違った場合、その未来を覆す為により大きな労力を要する事となる。

 ならば、完全に読み切らず、望みの結果を得る直前までの事象を読み、其処から後の結果を曖昧な状態として残せば?
 箱の中の猫が生きているかどうか。開かなければ分からない、などと言う訳ではない、と言う事。偶然、鳴き声らしき物が聞こえる可
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