第6章 流されて異界
第117話 リリーフ
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ややスリークオーター気味のフォームから投げ込まれた球が、有希の構えたミットを一ミリ足りとも動かす事のない位置に到達した。
良く晴れた氷空にミットを叩く重い音が響く。但し、それはハルヒや、九組のエース、自称リチャードくんの投じている球と比べるとあまり良い音とは言えなかった。
球速は……お世辞にも早いとは言えず、良く言ってそれなり。おそらく、ハルヒの投じていた球よりは速いでしょうが、九組の自称リチャードくんが俺に対して投げ込んで来たストレートと比べると、明らかに見劣りのする球速である事は間違いない。
三回の裏。綾乃さんが俺に続く三人の顔を一人ずつ順番に瞳に映して行く。
三対十。三回表が終わった段階で既に七点の大差を付けられた試合。どう考えても六組に勝ち目は薄く、更に言うのなら、ここで例え負けたとしても校内二位。準優勝と言う栄誉は待って居る状態。
ここは無理をして勝ちに行かなければならない訳ではない。
……賞品とされた俺以外には。
三人の表情は分からず。流石に有希に膝枕……揃えた膝の上に俺の頭を乗せた状態を維持されているので、自らの瞳には上空を流れる雲を映すのみ。
この状態では俺の視界は上空にほぼ固定。あまり頭を動かす事も出来ず、更に言うと動かそうとしても、何故か有希によって簡単に阻止されて仕舞う状態。
「ここは勝負所。このチャンスを物に出来るかどうかは試合を左右する、と言っても過言ではないと思うわ」
普段とあまり変わらない綾乃さんの声、及び口調。但し、これはどう考えても三人を追い込む台詞。
おそらく、自称リチャードくんが何の小細工もせずに、普通に野球での勝負を挑んで来るのなら、有希、万結。この二人ならば互角以上の戦いを繰り広げられるでしょう。そして、さつき……相馬さつきに関しては、彼女の能力がどの程度なのか詳しい事は分かりませんが、今まで彼女が示して来た能力から類推すると、一般的な人類のトップアスリート程度の能力でどうこう出来るような人間……術者でない事は確実だと思います。
しかし、マウンド上の彼が、俺と対した時と同じように人外の存在の能力を駆使して来た場合には……。
「問題ない」
非常に静かな声でそう問い返して来るさつき。ただ、声や口調は冷静なのですが、心の方はどうもそう言う訳ではなさそうな雰囲気。確かに現在、俺の瞳に彼女の表情は見えていない状態。普通の人が感じている点は、おそらく、ほんの少し言葉が鋭くなった。そう感じているだけでしょう。
しかし、その僅かな変化に対して、今の俺が少し恐怖を覚えた。そう言う感じ。
言葉は簡潔。この辺りに関しては、普段のさつきの発する言葉と同じ。ただ、彼女が発して居る気配の裏に――
「この回に追い付く。その心算でやれば良いだ
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