五十八話:ルドガー・ウィル・クルスニク
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ストラクトッ!!』
二槍の切っ先がぶつかり合い、爆発でも起きたような凄まじい衝撃波が生じ、見ている者の肌に刺すような振動を与える。更に衝撃波は逃げ場を求めて大地に向かい地面を粉々に砕き、なおも威力は収まることを知らずに空気を弾き飛ばし、空に浮かぶ雲を消し去る。クルスニク一族二千年の歴史の中で、最もその才に愛された者同士のぶつかり合いは拮抗したまま動かず、重なり合わすように気合を籠めた叫びを上げる。
『はああああっ!』
ぶつかり合う接点からは火花を通り越して炎が燃え上がり、見る者にその凄まじさを伝える。二人がぶつかり合ってから十秒も経っていないというのに何時間もその状態で居るかのようにさえ感じさせる。そんな二人の姿に黒歌は様々な思いを込めた声でルドガーの名を叫ぶ。
「ルドガーッ!」
「ッ! うおおおおおっ!!」
最愛の人からのエールにより力の湧いたルドガーがヴィクトルの槍を僅かではあるが押し込み始める。自分が押され始めたことに焦りを覚えて男は兜の下の顔を歪ませ、必死に自分に言い聞かす。こんな所で負けるわけにはいかない。“俺”は―――
――どんな手を使ってでもいい。他人を利用したって構わない。だから幸せになってくれ――
幸せにならないといけないんだ!
「おおおおおっ!!」
兄の最後の願いを思い出して筋肉が悲鳴を上げるのも無視してルドガーの槍を押し返し始めるヴィクトル。まさか押し返されるとは思っていなかったのか驚愕の余り力を抜いてしまいそうになる彼だったが何とか踏みとどまり男と再び拮抗し始める。そんな彼の元に今度は仲間達から応援の声が聞こえてくる。
「負けんじゃねえぞ、ルドガー!」
「ルドガー、あなたの力はこんな物じゃないはずよ!」
「気張りなさい。ルドガー君なら勝てるわ」
「……負けたりなんかしたら承知しませんよ、兄様!」
仲間達の声援に背中を押され彼は再びヴィクトルを押し込み始める。するとぶつかり合う接点がこれまでもかとばかりに揺れ動き始め、ヴィクトルの握力が無くなってきたことを知らせてきた。後もう一押しと気合を入れ直しこちらも握力が無くなりかけた手ではあるが槍をしっかりと握りしめて彼は突き進む。
一方の男の方はもはやこれまでかと若干の諦めが出てき始めていた。こんな形で終わるのは心残りがあるが、もはや感覚を失い自分のいう事を聞かなくなってきた腕には彼を押し返す力など残っていない。やはり偽物の自分では本物に勝てないのかと、そう自嘲気味に思い始めた時、ある言葉が男の脳裏をよぎる。
――ルドガー……私を―――愛してくれて……ありがとう――
「ラルゥゥウウウッ!」
もはや、男には何の意識もなかった。限界を超え筋肉が嫌な音を立てて引き
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