五十八話:ルドガー・ウィル・クルスニク
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ドガーの喉元に突き付けられる。顔を苦痛で歪めながら、彼はその槍を弾く。しかし、すぐに第二第三の攻撃がヴィクトルの槍から繰り出される。彼は骸殻に覆われていて見えない男の瞳を見つめて縋るようになおも言葉を続ける。
「本当にそれしかないのか? お前にだって今、隣にいる者がいるんじゃないのか! 俺には黒歌が居た。皆が居た。お前にだって残っている者がいるはずだ!」
一方的な防戦を行いながらも男に止まって欲しくて彼は諦めずに叫び続ける。こんな自分にも傍に居てくれる者がいたのだ。きっと男にだってそう言った存在があるはずだ。現に一人の少女は男の傍に今も居てくれる。そのことに気づければ、自分のように止まれる。踏みとどまれる。争い以外の終わり方があるはずだという彼の思いは―――
「仲間も兄もいない……妻もいない。そしてエルも“俺”の傍からいなくなった。
もう、“俺”には―――何も残されていないっ!!」
「ヴィクトル……我は」
男の心には届かなかった。何もかもを失った男の悲痛な叫びが辺りに響き渡る。その声を聞いた黒い少女が無表情な顔に悲しみを湛えポツリと呟く。ルドガーはやるせなさに思わず歯ぎしりをする。今のヴィクトルは光を得ながらにして盲目なのだ。失った者ばかりを見て今隣に居る者に気づかない。二つの別れ道の自分とは違う道を歩む者。かつて自分が選びかけた選択の成れの果ての姿。
「お前は……間違っているっ! 何も見えてなんかいない」
「お前には分からない…っ。最愛の女性を失った先にある絶望が! 色の消えた灰色の世界が!!」
荒れ狂う嵐の様に襲いかかってくる槍を掻い潜りながらルドガーはチラリと不安気に瞳を揺らす黒歌の方を見る。何に代えても守り抜くと誓った自分の最愛の女性。もし、彼女を失ったら自分もヴィクトルになってしまうのではないのだろうか。そんな事を考えずにはいられなかった。
「確かに俺にはお前の気持ちは分からないし、分かりたくもない。だとしても、俺はお前の願いを認めるわけにはいかない! 今まで俺を支えてきてくれた人達の為にも俺は負けない!!」
己の覚悟を叫び、何もない空間から無数の小型の槍を撃ち出すルドガー。
「黙れ! “俺”はお前を殺し、審判を越え、必ず全てを―――ラルを取り戻す!!」
鏡合わせのようにこちらも幾つもの小型の槍を撃ち出していくヴィクトル。槍同士が衝突することで衝撃波が生み出され空間に歪みが生じていく。
「ふっ、てやっ、はっ!」
「思い知らせてやる。最強の骸殻能力者の力を!」
双方が巨大な槍を手に持ち全身の力を槍先に籠める。永劫とも思える一瞬の静寂の後、両者は弾かれたように動き出す。同じ雄叫びを上げながら槍を持ち一直線に相手に向かい突進する両者。
『マター・デ
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