五十八話:ルドガー・ウィル・クルスニク
[1/8]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
響き合う金属音の中、ぶつかり合い相手を押しきろうとしてギチギチと不快な音を立てる両者の槍。全身を覆う鎧の下にある筋肉が固く硬直し緊張状態を示す。だが、次の瞬間にはそれが緩み、緊張状態を終えたことを告げる。
両者共に相手の槍を弾き返し、後方に押し下げる。しかし、流石と言うべきか二人共が完全に下がることは許さず、地面を抉るように足を食い込ませて踏ん張りをきかせる。そして、止まると同時に再び相手に向かい鋭い切っ先を突きつける。
「何故、“俺”ではなく貴様が本物なのだっ!」
「偽物も本物もない! お前も俺もルドガーだ!」
「なら何故、“俺”は当たり前の幸せすら掴めないのだ! 何故、この手で妻を殺さなければならなかったのだっ!?」
心の奥底からの言葉と槍をぶつけ合わせる。ヴィクトルの血を吐く様な声には憎しみと悲しみが籠められており聞く者の心を締め付ける。だが、ルドガーはその声を聞いても槍を振るう手を緩めることはしない。
ヴィクトルの言葉を受け入れることなど彼には出来なかった。彼は己の全てを捧げて少女の存在肯定をした。君は偽物ではないと、この世にただ一人しか存在しないのだとその命をもって証明してみせた。だからこそ、その少女の父親を偽物だと認める事は出来ない。
「俺はエルの為にお前を絶対に偽物扱いしない!」
「貴様がエルを語るな! エルは……“エル”はぁぁぁッ!」
自分の覚悟をハッキリと伝えると、ヴィクトルの槍が唸りを上げて襲いかかってくる。それに対し、体を僅かに横へと捻ることで切っ先を紙一重でかわし捻りを入れた反動を利用して自身の槍を、空間を抉る様に突きだすルドガー。
ヴィクトルは娘に対する思いとアイボーに対する思いがごちゃ混ぜになった様な到底正気を保っているとは思えない叫び声を上げながらもルドガーと同じように体を捻ることで槍をかわして、右手で突き出されて伸び切り硬直した状態の槍を掴んで、そのまま持ち主ごと上空に放り投げる。
『蒼波刃!』
空中で体勢を整えたルドガーと追撃を狙ったヴィクトルが共に巨大な衝撃波を放つ。衝撃波は宙で衝突し相殺して激しい爆発が生み出される。爆発に目を取られたルドガーは一瞬だけヴィクトルから目を切ってしまう。だが、その一瞬の隙を男は見逃さすことなく、戦闘に慣れている者ですら黙視出来ない速度で宙を舞う彼の後ろに回り込み、頭上から叩きつける様に槍を降り下ろし彼を地面に叩きつけた。
「“俺”が俺であるために…っ。貴様と言う存在は邪魔なのだ」
「だから……俺とお前は違うって言ってるだろぉぉぉおおおっ!!」
地面に小さなクレーターを作るほどの威力で叩きつけられたにもかかわらずにルドガーは怯むことなく土煙の中から飛び上がり、降りてきている最中のヴィクトルへと襲
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ