小鳥と薔薇
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わ。誰かが犠牲になるのなら」
「そう」
「そうよ。それに今は白い薔薇しかなくても何時かまた赤いのも咲くかも知れないし」
「赤い薔薇も」
「その時まで。待つわ」
「そうなんだ」
彼女も赤くなることを諦めた。パトリックとホリンはそんな薔薇に別れを告げて森を出た。そのまま湖の側にあるパトリックの家にまで帰るのであった。
「ねえホリン」
パトリックはまた鳥になっていた。そして飛びながら横にいるホリンに声をかける。
「何?」
彼はそれを受けて友人に顔を向けた。
「今はこの国には何もないよね」
「うん」
彼は友のその言葉に頷いた。
「本当に何もなくなってしまったけれど」
パトリックは両親も、そして兄弟も失ってしまった。全てをあの飢饉で失ってしまったのだ。
「けれど。また出来てくるよ」
「また?」
「そうさ、だって君と僕も友情が作られたし」
「友情が」
そうであった。彼等には今友情があった。他にはなくてもそれだけがあった。そしてパトリックはその為に彼を救ったのであった。約束を果たしたのだ。
「それは守られたし。だからこの国も」
ホリンは下に広がる大地を見た。何もなくなってしまった大地が。だがそこには新たな緑が生えようとしていた。飢饉で食べるものがなく全て食べ尽くされた筈なのに。そこに緑が甦ろうとしていた。
「また多くのもので満ちるようになるよ」
「うん」
そしてそれは現実のものとなった。パトリックはこの後その娘とは別の娘と恋に落ちた。彼女と結ばれて多くの子供と孫をもうけることになる。その横には常にホリンがいた。彼の最も大切な友人がそこにいたのである。その最後の時には祖国が甦るのを見た。何もかもなくなった筈の国が甦る姿を見ることができたのであった。
小鳥と薔薇 完
2006・3・2
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