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小鳥と薔薇
小鳥と薔薇
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けれど、それでいいのね」
「うん」
 ホリンはその緑の棘を見詰めながら応えた。
 大きな樫の木の側に生えている白い薔薇。そこにある棘はまるで剣の様に鋭く、尖っていた。禍々しいまでに尖っているそれを彼は身じろぎもせず見詰めていた。
「その為に来たから」
「わかったわ。ではその胸を棘に刺して」
 薔薇は言う。
「そして私を紅く染めて」
 ホリンはそれに従い前に出る。その小さな胸を棘に近付けていった。
(さようなら、パトリック)
 心の中で呟いた。それは別れの言葉だった。この何もなくなってしまったアイルランドで彼が持っていたたった一つの友達。彼は今その友人の為に命を捧げようとしていた。
(せめて僕のことは。忘れないでいてね)
「待ってくれ、ホリン!」
 だがここで聞き慣れた声が聞こえてきた。
「えっ!?」
 声は後ろからだった。ホリンはハッとして後ろを振り向く。そこにはその友人がいた。人の姿に戻ったパトリックがそこに立っていたのであった。
「間に合ったみたいだね」
「パトリック、どうしてここに」
「ホリン、もう赤い薔薇はいらないんだ」
 彼は言った。
「いらないって」
「話は聞いたよ。その薔薇は赤くなる為には君の命が必要なんだね」
「そうだけれど。それを何処で」
「小鳥達に。聞いたのさ」
「あの小鳥達に」
「そうさ。それで僕は彼等から羽と言葉を貰って鳥になった」
「そしてここまで来たんだ」
「君の為に。言ったじゃないか、何があっても君を守るって」
「それで」
「そうさ、僕はもう赤い薔薇はいらない」
 彼は言った。
「それよりも。君を失いたくない」
「パトリック」
 ホリンは友人のその言葉に心を打たれた。まるで雷を受けたかの様に。
「赤い薔薇も恋もまた得られる。けれど、君との友情は失ったら絶対に得られないから」
「それでもいいんだね?」
「うん」
 迷いはなかった。強い調子で頷いた。
「だからここまで来たんだから」
「有り難う、パトリック」
 ホリンはそれを聞いて一言礼を述べた。
「僕の為に。薔薇と恋を捨てて」
「言ったじゃないか、それはまた手に入るって」
 彼はまた言った。
「だから。ここから去ろう」
「行くのね」
 薔薇は二人に声をかけてきた。
「うん、君が赤い薔薇になれないのは残念だけれどね」
「けれどいいわ。私だって白いままでもいいから」
 さっきとは少し気持ちが変わっていた言葉であった。
「今まで赤くなりたくて仕方がなかったけれど。誰かを犠牲にしてでも」
「けれど今はそうじゃないんだね?」
「ええ」
 彼女は答えた。
「もう白いままでよくなった
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