小鳥と薔薇
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「今から探して来るよ」
「無理はしないでね」
「大丈夫だよ」
彼は笑って友に対して言った。
「きっと赤い薔薇を持って来るからね」
そう言い残して旅立った。それからホリンは約束通り赤い薔薇を探して回った。
だが赤い薔薇は見つからなかった。コノートにもレンスターにも白い薔薇があるだけであった。そして痩せて何もない土地と無気力に座っているだけの人々が。本当に何もかもがなくなっていた。
「かつては綺麗な国だったらしいけれど」
その美しいアイルランドはなくなってしまった。飢饉が全てを壊してしまった。人々は去り、去らなかった者の多くは死んでしまった。そして国自体も荒れてしまった。イギリスの為に。
「また戻れるかな」
それはホリンにはわからなかった。これからどうなっていくのか。ホリン自身もパトリックもどうなっていくのかわかりはしなかった。だが彼はそれでもパトリックの為になりたかった。理由は細かいものではない。彼が友人であったからだ。それ以外には何もなかった。赤い薔薇も。探せど探せど何処にもなかった。
「ここには白い薔薇しかないわ」
尋ねてみるといつもこうした答えばかりであった。薔薇どころか花さえも少なくなっていた。餓えに耐え切れず食べられてしまったのだろう。皆そうでなくては生きていくことができなかったのだ。仕方のないことであった。それでも多くの者が死んでしまっていた。最後には荒れ果てたかつての美しい大地と残されたあてもない人々だけであった。希望はもう残ってはいなかった。
「それでも僕には」
だが彼には一つだけ残っていた。パトリックとの友情が。彼はその為に今飛んでいるのである。
だが見つかりはしない。そして探し続ける。どれだけ飛び回っただろう。ふと赤い薔薇の噂を耳にした。
「それは何処にあるの?」
囁いていた小鳥達に対して尋ねる。
「レンスターの果てに」
小鳥達はこう答えた。
「あるらしいわ」
「わかった、レンスターの端だね」
それを聞いたホリンの顔に希望が宿る。
「そこに行けば赤い薔薇が手に入るんだね」
「ええ。けれどいいの?」
「何が?」
ホリンは小鳥達の言葉に応えた。
「その薔薇を手に入れるにはね。命が必要らしいのよ」
「命が」
それを聞いたホリンの顔が青くなった。
「そうよ。それでもいいの?」
「白い薔薇なら。探せばまだあるよ。それじゃあ駄目なの?」
「うん、駄目なんだ」
ホリンは気を取り直した。そして言った。
「赤い薔薇じゃなければ。これは約束なんだ」
「約束」
「そうさ、友達に誓ったんだ。絶対に赤い薔薇を持って来るって。だから」
「行くのね」
「うん」
彼は頷いた。
「
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