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小鳥と薔薇
小鳥と薔薇
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この辺りには赤い薔薇はないんだよ」
「えっ!?」
 ホリンはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「君は鳥だから遠くに行けるからわからないだろうけれど」
 彼は言った。
「この辺りには。白い薔薇しかないんだ。知らなかったかな」
「そうだったの」
 そういえばそうだった。ホリンも最近赤い薔薇を見てはいなかった。言われてようやく気付いた。
「だから。彼女もそんなことを言ったんだと思う」
 人はそこにないものを欲しがるものだ。彼女もまたそうなのだろう。赤い薔薇は今ここにはない。だからこそ欲しいと思うのだろう。
「だけれど。赤い薔薇はここには」
 ないのだ。どうしても手に入れることができない。ましてや今のアイルランドでは。薔薇よりも生きることの方が大事であった。あの飢饉は人の心も花も枯らしてしまったのだ。
「その白い薔薇さえも」
「けれどその赤い薔薇を手に入れたらその娘と一緒になれるんだよね」
「多分ね」
 パトリックはホリンの問いに答えた。
「赤い薔薇が手に入ればだけれど」
「わかったよ」
 彼はそれを聞いて頷いた。
「その赤い薔薇、僕が手に入れて来るよ」
「君が!?」
「うん」
 彼はこくりと頷いた。
「僕は君の友達だから。何があっても手に入れてくるよ」
「何があっても?」
「そう、何があっても」
 彼は答えた。
「だから安心して。いいね」
「本当にいいのかい?」
「何が?」
「いや、僕の為に」
 パトリックは心配そうな顔でホリンを見て言った。
「何があってもって」
「友達じゃないか。何でそんなことを言うんだよ」
「友達か」
「そう、僕達は友達だよ」
 ホリンはにこりと笑ってこう言った。
「こんな状態だけれどね、ここは」
「うん」
 何もなくなってしまったアイルランド。彼等はそこに一人と一羽でいた。他には何もなくなった。だが友情だけは持っていたのであった。
「それでも僕達はいるから」
「それじゃお願いできるかな」
「勿論だよ」
 ホリンはまた答えた。
「だから。安心していて。君は彼女と一緒になれるよ」
「それじゃあ僕も約束するよ」
「約束!?」
「うん。君が僕の為に何かをしてくれるのなら」
 パトリックは言った。
「僕は君を守るよ。何があっても」
「それも友達だからかい?」
「そうさ」
 彼は頷いてそれに答えた。
「君が僕の為にそこまでしてくれるのなら。僕は君を何があっても守るよ」
「有り難う」
 ホリンはそれを聞いて彼に礼を述べた。
「それじゃあその言葉よく覚えておくよ」
「うん」
 パトリックは頷いた。ホリンはそれを見てから飛び立った。
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