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第一章
キョンシー
話は聞いていた。
袁花蓮の家は道士である。この高雄の道観に代々住んでいる。彼女も父や兄と同じく家の仕事をしている。大学に通いながら将来は家業を手伝うつもりである。
「こうやるのね」
黒く長い髪をさらりと伸ばしている。一応服は道教のものを着ていて赤く派手な色彩である。だが髪は整え化粧もしている。日本の女優を真似ているのである。こうした流行は台湾にもあるファッション雑誌を読んで勉強しているのである。こうしたところは日本でも台湾でも同じである。
「それでこうして。成程」
「んっ!?花蓮」
何かを呟いている妹を見て兄の銅雀が顔を向けてきた。黒い髪を後ろに撫で付けている背の高い若者である。この道観の跡取りでもある。やはり道士の服を着ている。
「何だその本」
「あっ、何でもないわ」
その古い本を隠して応える花蓮だった。
「たまたまあったの読んでいただけだから」
「それだけか」
「そうよ、それだけよ」
それだけだというのである。
「ただそれだけよ」
「そうか。だったらいいけれどな」
「ええ」
「それにしてもな」
ここで、だった。彼は少し溜息を吐き出して、それからまた言うのだった。
「最近忙しいな」
「そうね。お客さん多いわね」
「御祓いに厄払いに。そんな話ばかりだな」
「不景気だからそうなるのかしら」
「だろうな。まあそれでこっちの商売になるのか」
道教ではこうした御祓いや厄払いも道士の仕事なのである。冠婚葬祭を司るがそうしたことも司るのは日本の神道と同じである。
「それを考えたらいいか」
「いいじゃない。お父さんとお母さんもそれで出てるのね」
「ああ、俺も今から行く」
そして彼もだというのである。
「じゃあな。留守番頼むな」
「ええ、それじゃあ」
こうして銅雀は家を後にした。花蓮は一人になるとまたその古い本を開いた。それはキョンシーに関する本である。
キョンシーとは中国の吸血鬼である。身体は死体だけあって硬直しており飛び跳ねて動く。怪力を持ち人の頭をもぎ取ってそこから血を吸うのである。
本にはこう書かれている。花蓮はそれを見てまずは唖然となった。
「怖いのね、キョンシーって」
そのことをはじめて知るのであった。
「映画みたいなのじゃないのね」
彼女が今まで抱いていたイメージはまさに映画のキョンシーだった。しかしそれはどうやら違っていた。本を読む限りではそうである。
「けれど動かし方は同じね」
それは読んでみてわかったのだった。
餅米を用意し顔にお札を貼る。そうやって操るというのである。
「これでいいのね。じゃあ」
ここまで読んでそのうえで家の奥に入った。そこは霊安室であった。
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