3部分:第三章
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第三章
(母さんもまた随分とそっくりに化けたものだ)
こう心の中で呟くのであった。
(ここまで似せられるなんて。どうやったのかな)
こんなことを思っているとだった。彼のところにその友香が来たのである。彼はそれを見てまさしく顎が外れんばかりに驚いてしまった。
「えっ、どうしてここに!?」
「どうしてってお父さん」
彼女は困り果てた顔で彼のところに来て。そのうえで告げたのであった。
「ゴキブリホイホイ何処だったかしら」
「ゴキブリホイホイ!?」
「そうよ。もうゴキブリが一杯いたのよ」
その困り果てた顔はまさに切羽詰ったものであった。
「一匹見たら三十匹はいるって言われてるけれど」
「そんなにいたのか」
「もうね。うじゃうじゃ」
言いながらうんざりした表情になってきていた。
「どれだけいるのかわからない位よ」
「まずいな、そりゃ」
「そうでしょ。それでゴキブリホイホイは」
「まだ買ってなかった筈だよ」
こう妻に返すのだった。自分の記憶を辿ったうえでだ。
「それはまだね」
「困ったわね。それは」
「うん。けれど母さん」
とりあえずゴキブリの話は置いておいてであった。彼はここで自分の妻に対して今目の前で起こっていることに対して尋ねるのだった。
「準備は?」
「それどころじゃなくて」
ゴキブリの方が一大事だというのである。
「今はもう」
「それはわかったけれど」
しかしであった。今は。
「じゃああそこにいるのは誰なんだい?」
「あそこって?」
「ほら、障子のところ」
こう言って自分が今身体を向けている障子を指差すのだった。その障子の向こうにいるのは。
「えっ、嘘」
胡坐をかいて座っている夫のその傍に膝を立てて半座りになっている友香はその障子の向こうを見て思わず声をあげたのであった。
「私ここにいるのに」
「だよな。じゃああれは一体」
「わからないわ。誰なのかしら」
「若しかして」
ここで暢彦の頭の中に不吉なものが走った。
「あれは」
「泥棒!?それとも」
「お化けなのか?」
二人がこう思ったその時だった。その障子の向こうから声がしてきたのであった。その声は二人もよく知っている懐かしい声であった。
「暢彦、友香さん」
「間違いない」
「お義母さんの声よ」
「久し振りだね」
懐かしくかつ優しい声であった。その声を二人にかけてきたのである。
「元気そうで何よりだよ」
「お婆ちゃん、お婆ちゃんの声よ」
美果はその声を聞いてはしゃぎはじめた。
「お盆だから帰って来てくれたのね」
「そうだよ。美果ちゃんも元気だね」
「うん、元気だよ」
彼女は底抜けに明るい声で自分の祖母に対して答えたのだった。そしてそのうえで尋ね返すのであった。
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