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【銀桜】7.陰陽師篇
第3話「嵐ニモ負ケズ」
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てくれた。
 いつも式神の自分を気にかけてくれた。
 クリステルと出会って初めて知った。
 暖かい心を。
 最強と謳われる陰陽師の妹は明るく笑顔の絶えない、とてもとても優しい人だった。
 そんな彼女が『お天気アナウンサー』という生き甲斐を奪われ、まるで心にぽっかり穴が空いた抜け殻のような姿を見た時は、胸が締めつけられるような痛みに襲われた。
 それもまたクリステルと出会って生まれた――外道の自分にはないはずの『思いやり』からくる痛みだったのかもしれない。
 どうにかして助けたいと苦心した。だが、式神は所詮式神。命令されない限り、日が照らす世界へ赴くこともできないただの『道具』。
 孤独しかなかった自分に誰かと一緒にいる楽しさを主は与えてくれたのに、できたのはただ見ている事だけ。何もできない自分が悔しかった。
 晴明が己の過ちに気づかなかったら、クリステルに笑顔が戻ることはなかっただろう。
 お天気お姉さんとしてクリステルの元気な姿をまた見れた時は、本当に何よりも嬉しかった。
 なのに、あの悲劇が繰り返されようとしている。
 もう主が苦しむ姿は見たくない。
 二度と主から笑顔を消させない為にも、何も教えないことが自分にできる唯一のこと。
「もしクリステル様に余計なことを吹きこむおつもりでしたら、命はないとお考えください。仮の主の妹いえど、容赦はしないでござんす」
 警告するように外道丸は銀髪の女に言った。
 結野衆とは無関係であるよそ者の彼女なら、クリステルにこの件を知らせてもおかしくない。
 銀時に向けたのと同じ漆黒の瞳で銀髪の女を捉える。
 しかし双葉は目を反らさず、溜息混じりに答えてきた。
「何を勘違いしている。私は天気アナやお主たちがどうなろうと興味ないな。だいたい他人(ひと)の泥水をくんでやれるほど大きくないんだよ、私の器は」
「……そうでござんすか。それを聞いて安心したでござんす」
 そう言って外道丸は双葉に背中を向ける。
 そのまま先に進んだが、不意に掛けられた声によって足を止められた。
「式神、一つ聞く。笑うのはお主の(あるじ)だけか」
 突拍子もない質問。
 だがそれは何かを射抜くような鋭さがあり、また強い念を秘めた視線を背中から感じる。
 重く背にかかる威圧に、外道丸は臆することなく答えた。
「あっしはクリステル様に仕える式神。主に身を尽くすだけでござんす」
 言い切って、外道丸は今度こそ歩を進めた。

 廊下を歩く中で先ほどの質問が少し気にかかったが、彼女の想いは揺るがない。
 (クリステル)を護るためなら、どんな手段も(いと)わない。
 例えこの身が滅んだとしても、主の笑顔を護り抜く。
 外道丸の胸に潜むのは、そんな覚悟であった。

=つづく=?

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