第四章 誓約の水精霊
第六話 凍りつくもの
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で」
「直轄領?」
予想外の言葉に、キュルケは戸惑い顔を、リンゴを見つめるタバサに向ける。
「そうでさあ。王様の所領ってことで、こんなわしらも、王様のご家来っちゅうことになりますな」
笑う農民に顔を戻すと、キュルケはその形のいい唇を人差し指でなぞった。確かに、これだけ美しい土地であれば、王様の食指が伸びてもおかしくない。
しかし。
細めた目で、タバサを横目で見やる。
顔を伏せているため、どんな表情が浮かんでいるか見えない。
(まさか……ね……)
「まさかとは思ったけど……」
農民から別れ、十分程度進むと、旧くも壮麗なお屋敷が姿を現した。いつの間にか、直轄領から出ていたと言うわけがなく、最後の望みとばかりに、段々と近づいてくる門に刻まれた紋章を目を細め見つめると、
「……はぁ……」
交差した二本の杖、そして『さらに先へ』と記された銘。それはガリア王家の紋章。
初めてタバサに会った時から、余りにも適当に思えるその名前に、それが偽名ではと疑っていたが。精々それなりの地位にある貴族の庶子ではないかと思っていたが、まさかガリアの、それも王族だったとは。
ふとタバサに視線を向けると、タバサも窓に目を向けていた。窓の向こう、ガリア王家の紋章を見つめていた。冷たく、凍りついたような瞳からは、何の感情も伺えない。そのことに心の中で嘆息すると、同じように視線を窓の外へ向ける。
(……あれ?)
門が間近に来たことから、門に刻まれたガリア王家の紋章がハッキリと見えるようになり、遠目では見えなかったものが目に入った。
「不名誉印?」
小さく口の中で呟く。紋章の上にはバツ印が刻まれていた。それは王族でありながら、その権利を剥奪されているということだ。
馬車が止まると、一人の老いた執事が馬車の扉を開け、恭しく頭を下げてくる。
「お帰りなさいませ」
たった一人だけの、寂しい出迎えを受けながら、タバサの後に続いてキュルケも馬車を降りる。屋敷の客間まで、老僕に案内されたキュルケは、居間に辿り着くまで、結局老僕以外の人間の姿を見かけなかった。綺麗に掃除はされているようだが、全く人気がなく、静まり返った屋敷は、まるで幽霊屋敷のように感じた。
しばらく客間の様子を眺めていたキュルケだったが、飽きたのかソファーの背に体重をかけながら、タバサに話しかけた。
「タバサのお父上に挨拶したいんだけど、今日は留守なの?」
返事はあまり期待していなかったのだが、予想に反してタバサはソファーから立ち上がると、キュルケに顔を向けることなくここで待つよう言った後、ゆっくりと歩いて客間から出て行った。
さっさと出て行った客間の扉をポカンと見つめていると
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