Last After 命の旅立ち
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本土へ向かう高速バスのバスターミナルで。戒斗と咲は並んで高速バスの到着を待っていた。
――戒斗が世界を見に行く旅が、今度こそ始まるのだ。
咲が何も言わないので、戒斗も何も言わなかった。
時折、咲の横顔を見下ろせば、咲は視線に気づいてニコリと笑い返した。
咲の命を吸ったこの体がどこまで保つのかは分からない。オーバーロードであっても、一度は死んだも同然の身。人間とそう変わらない寿命になったかもしれないし、明日にコロリと逝ってしまうこともありうる。
それでも戒斗は沢芽市に留まることはせず、自身の望み――ユメを果たしに旅に出ようと決めた。
…………
……
…
紘汰の開いたクラックは神木のそれなりに高い位置に開いたらしく、一歩を踏み出したとたんに、彼らはまっさかさまに落下した。
咲は自分が小脇に抱えて着地したからいいが、光実とヘキサは凰蓮が力士顔負けにがっしり受け止めねば危うかったかもしれない。
とにかくも戒斗たちは無事地球に帰還し、残っていた者たちの「おかえり」コールと熱烈な歓迎を受けた。
そうして翌日には早々にそれぞれの日常に戻って行った。
凰蓮と城乃内は“シャルモン”のケーキ職人とその見習いに。
ザックとペコとチャッキーはビートライダーズのダンサーに。
貴虎は“沢芽市復興局”の一局員として沢芽市を含む世界の復興活動に。
光実は受験を控えた一高校生に。
ヘキサは仲間と共に青春真っ盛りの中学生に。
そして戒斗と、今、戒斗の隣にいる咲は――
高速バスがやってくる。
戒斗と咲は、示し合わせたでもなく、互いに正面から相手と向き合った。
「今度こそ、じゃあね、だね」
「ああ」
高速バスが戒斗の横で停車し、空気の抜ける音を立ててドアを開いた。
「行ってらっしゃい。気をつけて。――よい旅を」
咲はとても奇麗な笑顔で、戒斗にさよならを告げた。
戒斗は手を伸ばしかけたが、その手を引っ込め、咲の笑顔を目に焼き付けるに留めた。そして、荷物を肩に担ぎ直してからバスに乗った。
咲は出発した高速バスをしばし見送り、踵を返した。
(よかった。今度はちゃんと笑顔でサヨナラできた)
これは永遠の別れではない。戒斗がユメに向けて歩き出す、その背を押せたのだ。寂しさ以上に、そうできた誇らしさが大きく胸の中にあった。
この誇らしさもまた、室井咲を生かす命の糧だ。
桜散る道を歩き出す。
今日はドルーパーズにて久しぶりに元リトルスターマインで集まる日だ。
自分はまたそこでパワーを貰って、これからの日々を生きていく。
今日も、明日も、明後日も。
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