水と油と菊の花
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いでしょう」
ローデリヒがため息混じりにいう。そしてひったくるようにギルベルトから紙切れを取る。あ、固まった。書面を見るや、ローデリヒが凍ったように動かない。目線が動く気配もない。
「……あれ?」
「ギルベルト…あなた、言ってることには同意しますよ。ですが、なんですかこの赤い文字の列は! 呪う気ですか!」
「え」
赤で書いたか、俺。
ローデリヒの振りまわされる両腕に数回ヒットしながら、“呪い”と言われたそれをかすめる。
ホントだ。真っ赤だ。せっかく書いたのに。
「かか、書き直さないと、署名しませんからね、このお馬鹿さんが!」
――5時間後――
「…えーっと、とまったエレベーターってここだっけ? おーい、ルート?」
「ああそうだが…」
背後で何度も同じことを訊いてくる連れに、ルートヴィッヒは答えた。だがドアをこじ開けるバーを持った腕は止まらない。
「ねぇ、ルートーっ」
グギギギ……
「俺つまんなーい」
ギギギギ…ガンッ
「え、今すごい音しなかった?」
「頼むから静かにしていてくれないか」
ギギギ…ギ
「そう言えばさっき防犯カメラ見てきたんだけどさ。このエレベーターに乗ってんの、ギルだけじゃなかったよ」
「ローデリヒもだろう」
先ほどから相手にしてくれないルートヴィッヒの耳に、フェリシアーノは声をいくらか低くしてささやいた。
「菊もだってー」
ギギギ……ベコンッ
「嘘?! ドアがへこんだ!」
「早く菊を兄貴から解放せねば…!」
ルートヴィッヒはわずかにできた隙間に腕を突っ込み、左右に力を加える。
10秒かからずして全開になったドア。だがその先にあるはずの箱はなく、はるか下方になにやら光が見えた。
「風が気持ちいいー」
「フェリシアーノ、縄ばしごって持っているか?」
しゃがみこんで暗闇に乗り出すフェリシアーノにルートヴィッヒが尋ねると、「うん!」という声とともにロープが差し出された。
「縄ばしごとは…」
期待していたものとは少々異なるが下へ降りるには十分長さがある。それを手にルートヴィッヒはエレベーターの向かいの壁、オフィスのガラス戸にロープをくくりつけた。
「降りるぞ」
「了解!」
「えーっと?」
こちらもやはりルートヴィっヒがこじ開けた救出口(エレベーターかご内に設けられている非常救出用のハッチのことをいう。かご内からは開けられない構造とし、開けられたことを検出するスイッチを設けて開いている場合にはエレベーターが動かないようにすることが法律で義務付けられている。【横浜エレベータ株式会社
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