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水と油と菊の花
水と油と菊の花
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 “目と鼻の先だったらいいけど”などというどうでもいい事の方に頭が持っていかれていたからかもしれない。いずれにせよ、両方とも動かない。

 ローデリヒは、どの方向に2人がいるのかもわからず、また外れた眼鏡も探してあちらもあちらで忙しい様だった。

「菊さん? 大丈夫ですか、あとどこにいるか教えてください」

「ここです!」

「どこですか!」

 2人のやり取りにフフッと笑いながらもギルベルトはもう少しこのままで…なんてことを考えていた。

「てか、おい坊ちゃん。俺はどうでもいいのかよ」

「あなたはお黙りなさ……いたっ」

 鈍い音がした。当たった本人より、当てられた壁の方が可哀想な音だ。

 これだから方向オンチは。もう知らん、放っておこう。

「そういえば菊。何かしようとしたのか? 立ち上がっただろ」

 少し目が慣れてきた。目の前の菊はなおも壁に当たり続けるローデリヒからギルベルトに視線を移し、「そうでした」と手を伸ばして自分の鞄を引き寄せた。

 あ゛あ゛あ゛俺は馬鹿か!(←うん知ってた) 菊が俺から離れてしまったではないか!

「パソコンで明かりと取ろうと思ったんです」

 そう言ってノートパソコンの起動音のつづいて自動スリープ機能を解除しようとキーボードをたたく菊。

 明かりなんていいからさっきの位置に、俺の近くに戻ってきてください。お願いします。

「…っと、よし。これでローデリヒさんももうぶつからなくてすみますね」

 そんなヤツのことはどうだっていいんだよ!

「ありがとうどざいます」

 ローデリヒはパソコンを隅に置いて再び立ち上がろうとする菊の腕を引っ張ると、ワルツのような手取りで菊を自分の元へ引き寄せる。

 その速さと慣れた手つきに、菊は何をされているのかがわからないといった様子だった。

 ちょこんとローデリヒの膝に収まって、ようやく状況が理解できたのか菊が発したのは「ひょあっ!」という間の抜けた奇声だった。

 菊の驚きの声に内心こみ上げる笑いを噛み殺しながら、ローデリヒを睨み続けるギルベルト。

 その目つきは骨を横取りされた犬、おもちゃを取り上げられた赤ん坊そのものだった。




――30分後――


 パソコンの画面のLEDがいくらか落ち、辺りは数分前より薄暗い。

 マウスパッドに触れればまた画面が明るくなることくらいわかっている。わかってはいるのだが菊の私物にやすやすと触るのが恐れ多いというか。

 そんなことでためらっている間に、また一段と暗くなる。

 そのことに気がつかない菊でもないだろうに。

 菊横取り事件以降ずっと(一方的に)睨み続けている、光を反射して気持ち悪い眼鏡から
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