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水と油と菊の花
水と油と菊の花
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恥ずかしかったのだろうか。

 なら目を合わせようとしなければいいのに、まったく。可愛いからいいけど。

 扉が開いたエレベーターに真っ先に菊が駆け込んで、次にローデリヒ、最後ににやけが止まらなくて出遅れたギルベルトがドアに挟まれながら乗り込んだ。

 その“ガション”と「ふぎっ」の混じった何とも言えない嫌な音と言ったら。


 その時だった。いや、正確にはギルベルトをプレスした扉が無慈悲な音とともに閉まり切った時だ。

 ウィンとかすかな機械音がしたかと思いきや、お次は視界が真っ暗になったのだ。しかもエレベーターの安全ブレーキが外れるというオマケつきで。

 菊が言った通り、現在標高はビル11階。そこから急降下するエレベーターの中で1番絶叫していたのはギr…お察し願いたい。

 とにかく3人は雄叫びとも断末魔ともつかない声をあげている。それで救助が駈けつけるのでは、というほどである。

 が、神様もそこまで優しくないようでこの鉄の箱は(安定と信頼の)日本製。そう、メイド・イン・ジャパーンなのだ。

 エレベータが1階のさらに下、油圧ダンパーがあるところに到着し、腰が抜けた3人がまずしたことといったら日本の技術をのろうこと以外に何があろう。

「すごいな。大声出して響くとか。どんだけおと逃がさねぇんだよ」

 すみっこの芋虫……もといギルベルトが捨てるように呟く。

「ギルベルトさん、震えていますね」

「武者震いだ」

「何に対してですか。お馬鹿さんが」

「んだと?!」

「でもまさか、我が国をこんなにも恨む日が来ようとは…」

「……思い出した! 俺が挟まれたとき坊ちゃん俺のこと笑ってただろ!」

「笑ってなどいません。無様なあなたを見てニヤリなどしていません」

「おい」

 暗がりの中、(1部場に合わないが)声だけが飛び交う。

 しばらくたって、誰かが動く気配がした。もし“誰か”じゃなくて“何か”だったらどうしようか。んな、馬鹿か俺は。

 方向的にローデリヒが動いたのだろう。そう結論付けたはよかったが。

「ひょあっ!?」

 何か(人であることを祈る)が倒れてきたような重みが上半身にかかった。そこまで重くはない。が、痛い。わき腹にあごらしきものが当たったからだ。

「すみませんギルベルトさん、大丈夫ですか?」

「…菊、なのか?」

「ええ、はい。すみませんっ、立ち上がったら…足に力入らなくて」

 むくりとあごを上げる菊。その髪が頬に触れた気がした。

「別に……っ? いいんだけど、さ//////」

 暗がりのせいで距離感がつかめず菊とどのくらい離れているかなんて知る由もない。そのためギルベルトはヘタに動けないでいた。
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