After25 あなたにあげる
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さい。あたしも……それに、ミッチの快復で、かなり力使っちゃったから」
「だから――咲ちゃんなんですね」
ヒマワリアームズは咲にしか扱えない。咲になじみすぎたロックシード。イニシャライズされた戦極ドライバーと同じで、咲以外を受け付けないことは皆が薄々知っていた。
「ああ。ただそれでも、咲ちゃんの……一生分の養分が、必要になる。ロックシードそのものを与えるから、ヒマワリアームズも使えなくなる。それでも、やる?」
咲は一度だけ目を伏せ、腕でぐい、と涙を拭った。
「いいわ。あたしの未来、戒斗くんにあげる」
胸の前でヒマワリの錠前を握り締め、決然と。咲は、痛ましい顔をする紘汰を見上げた。
「オトナになれなくてもかまわない。それで戒斗くんに明日が来るなら」
横たわる戒斗をふり返る。蒼白な顔色。触れたほうの手に感じる、体温の低下。それらが戒斗の命のカウントダウンを告げている。
「戒斗くん、世界を見て回るんだって言った。小さい世界しか知らなかった自分だから、もっと大きい世界を見に行くんだって。そのユメが叶わないなんてウソだもん」
――いつだったか、サガラが咲を指して言った。夢の担い手、と。
夢見る人たちの夢が叶わない条理など、室井咲は認めない。障害があるのなら、どんな手段を使っても打ち砕いてみせる。
「だいじょうぶよ。戒斗くんにあげたって、あたしの命は枯れたりしない」
咲は胸に両手を当てた。とくん、とくん、と聞こえる心音。
「みんな、人一人の命の量は最初から決まってるみたいなこと言うけど、あたしはちがうと思う。あたしの命はあたしだけのものじゃない。お父さんとお母さんがくれる元気、ヘキサたちといっしょにいる時に湧いてくる勇気。踊る楽しさ。たくさんのドキドキワクワク。みんながあたしにパワーをくれる。これから未来も、ずっと。だから、今ある分を戒斗くんにあげちゃっても、あたし、平気だよ」
他でもない戒斗がそう教えてくれたのだ。
出発前夜の、あの、たった1秒のゼロ距離で。
くちびるを通して、最高の命の息吹を注ぎ込んでくれた。
「――そうだったな」
紘汰は咲の前にしゃがみ、微笑した。
「咲ちゃんは、泣くこともあるけど、頑張れる子だもんな」
咲が手に載せたヒマワリのロックシードに、紘汰が手を重ねた。
ロックシードは小さなひまわりの花に変化し、次いでヘルヘイムの花に姿を変えた。
「これを戒斗の胸に」
紘汰から貰った“花”を、おそるおそる戒斗の心臓の上に置いた。
すると“花”はそこに泉があるように、とぷんと、戒斗の体内に沈んでいった。
……ピク
咲は身を乗り出した。
今確かに、戒斗の指先が微かに動いた。
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