七話:狂気
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としか思えない言いようのない気持ち悪さをヴィクトルから感じる。
それはまるで、顔を隠していた仮面を取り外して素顔をあらわにした道化のようだった。ヴィクトルはそんなプレシアの様子に気づくこともなく朗々とした声で語り始める。
「私の居た世界にもこの次元世界と同じように複数の世界が存在した」
「そう……続けなさい」
「次元世界と違う点は全ての世界がある一つの世界、正史世界から枝分かれした世界であるという点だ。それだけであるなら、そこまでの差異はないだろう……だが、次元世界と大きく異なる点が存在する。何か分かるかね?」
「……いいえ」
やけに芝居がかった台詞に自嘲気味な声という何ともアンバランスなヴィクトルの話にプレシアは知らず知らずの内に飲み込まれていた。プレシアの返答にヴィクトルは満足そうに笑みを浮かべてみせたがその笑みは見る者の背筋を氷つかすような気味の悪い物だった。たっぷりと間を空けた後にヴィクトルが言葉を続ける。
「それは枝分かれした世界、『分史世界』を―――壊し続けなければならないということだ」
「世界を……壊す?」
余りにも荒唐無稽な話にプレシアは否定することもできずに、ポツリと呟くことしかできない。バカげている、と叫んでしまいたいがヴィクトルの憂いに満ちた顔を見てしまうとそれが真実であることを認めざるを得ない。
「どうして壊さないといけないのかしら?」
「簡単に言うとだ。まず、世界という一本の木が有るとしよう。そこに分史世界という枝が生えてくる。枝が生えた以上は今まで以上の栄養が必要だ。……だが、木に与えられる栄養はあらかじめ決まっている。その状態で、枝が際限なく増え続けたらどうなる?」
「……木は枯れる」
「その通りだ。放置しておけば正史世界も分史世界も共に滅びるバッドエンドだ」
だから、木の枝を切り取るように世界を壊し続けるのだ、と自嘲気味に笑いながらヴィクトルは続ける。プレシアはその様子にヴィクトルが実際に世界を壊していたのだろうと察する。しかも、到底割り切れないことも経験してきたのだろうと思わずにはいられなかった。
「私の仕事は自らが住む本物の正史世界を守るために偽物の分史世界を壊す―――はずだった」
「はず……だった?」
知らず知らずのうちに喉が渇いていたのか掠れた声で繰り返すプレシア。次の言葉を聞きたくないと頭が拒絶しようとする。何故、次の言葉を聞きたくないと思うのかは彼女にも分からない。だが、頭の回転が早い彼女は聞くよりも先に彼に起きた悲劇を理解してしまった。それは、いずれ自分がフェイトに突きつけるだろう絶望と同質の物だと。
「私が今まで本物だと信じて疑うこともなかった世界は全て―――偽物だったのだ」
自分もまた、分史
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