プロローグ
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かべて飛び掛かった。
「遅い。それに隙が多い」
その時になってようやく視線を向けたデイドラは澄まさなければ聞こえないようなか細い声で言うと、振り下ろされた爪をまるでよろけるようにして横にかわす。
よけられることなど夢にも思っていなかったゴブリンは着地に失敗し、
『グェッ』
と、地面に潰れるようにぶつかり、床をごろごろと転がった。
壁にぶつかってようやく止まったゴブリンは立ち上がろうとして自分が影の中にいることに気付いて顔を上げた。
そこには微かな逆光に黒く塗り潰されたデイドラが元からそこにいたように佇んでいた。
彼の翠緑の瞳だけが闇に浮かび上がる。
その光景にゴブリンは今更めく自らの過ちに気付いたが、時既に遅しである。
「弱い、遅い、知能の欠片もないこんな物に…………こんな物にっ!!」
デイドラは虚ろだった目に瞋意の炎を燃え上がらせると、右手の短刀を振りかぶり、逃げる間も与えず、脳天に刃を突き立てた。
『ゲッ――』
気の抜けた断末魔を上げたゴブリンから短刀を引き抜くと、再び目を虚ろにして、その場を去――ろうとしたところで言い付けを思い出したデイドラはめんどくさそうに振り返ると、絶命したゴブリンの傍で膝を折って、ゴブリンの左胸を短刀でえぐった。
すると、左胸に穿れた穴からぽろっと指の爪大の紫紺の石『魔石』がこぼれ落ちた。
魔石は照明などのあらゆる製品の動力源として重宝されていて、モンスターの生命の源でもあり、魔物の心臓の近くに埋まっている。
集めた魔石は地上にある換金所で換金できる。
また、お金を度外視するならば、魔石を破壊することで、魔物の生命の源を断ち、殺すこともできる。
魔石を奪われたゴブリンの遺骸は指先から灰となり、あっという間に灰の山と化した。
それを虚ろな目で静かに見ていたが、おもむろに踵を返すと、足を踏み出した――その時だった。
デイドラは微かな音を捉えた。
あまりにも微かで、初めはそれが何の音かはわからなかったが、すぐにそれが人の叫び声だとわかった。
「――――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」
その声の主は疾風の如くデイドラの前の十字路を横切った。
一瞬見えたその姿は真っ赤に染まった少年。
一見すれば悍ましい光景ではあったが、情けない叫び声でそれは霧散していた。
デイドラはその少年、ベル・クラネル、の消えた方をしばらく無感動に眺めるとベルが来た道を覚束ない足取りで歩いていった。
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